2013年5月29日水曜日

桜木紫乃 「ラブレス」なのに愛があふれている

1年以上前に知人から紹介されていたのを思い出し、先日桜木紫乃の「ラブレス」を読んだ。

映画ではしょっちゅう使われる手法だが、現在の出来事からはじめて過去にさかのぼり、現在と過去が同時進行で展開されるパターンだ。
慣れるまでは、登場人物の関連性や年齢などをイメージするのに混乱するような読みにくさがある。
荒さが気になる文章表現も見られる。
弟たちの人物造形にはまったく納得いかない。
小夜子の不倫という設定も何の意味があるのかと思う(不快)。

そのようなマイナス要因を差し引いても、この本にはあふれるほどの愛がつまっている。
意表を突くようなストーリーの展開もすばらしく、最後は圧倒されてしまう。
高く評価されていい作品だと思う。

読み終わっていろいろこの本に関する情報をさがしてみた。

最初に見たサイトが「紙魚のつぶやき」というブログで、「ここまでひどい小説はない」という批判を徹底的にしている。
私は先月に「カラフル」の悪口をブログに書いたが、その比ではない悪評価にいきなり接して面食らってしまった。

それで、この小説が昨年前期の直木賞候補だったことを知る。
「ラブレス」をおさえて直木賞に選ばれたのは葉室麟の「蜩の記」だった。

私は本好きなくせに直木賞とか芥川賞とかにはあまり関心がなかったのだが、どういうわけか「蜩の記」は気になって昨年読んだ。
「蜩の記」を読んで、なるほど、このような立派な小説が直木賞に選ばれるのかと妙に感心した。
そのときは「ラブレス」が「蜩の記」の直木賞対立候補だということを知らなかったのだが、「ラブレス」を読んだ今は、こちらが直木賞を取ってもいいではないかとさえ思っている。

候補作家の群像」というサイトがあって、選考委員の「ラブレス」に対する評価が要点のみだが紹介されている。
直木賞では9人の選考委員がいて、なぜこんな人がと思わせるような作家も混じっているが、私は好きな作家の宮部みゆきの評価に注目した。

「徹夜で読み、何度も笑い、泣きました。」「どうして受賞に届かなかったのか、振り返って考えてみると不思議で仕方ありません。」「全身全霊でぶつかってくるこの物語に惚れてしまい、駆け落ちしようと決めた刹那にふと我に返り、「出会ったばかりのこの人と、このまま突っ走ってしまっていいのかしら」と急に腰が引けてしまったのよ――と説明するしかないようで、まことに申し訳ありません。」

同じページに吉川英治文学新人賞の選考委員評価も載っていて、そこでは宮部みゆきは次のように言っている。

「できるならばこの二作(引用者注:「ラブレス」と「ジェノサイド」)に受賞させたいと思いつつ選考会に臨み、」「何より、『ラブレス』が与えてくれた読後の圧倒的な幸福感に、私は票を投じずにいられませんでした。」

他の選考委員の評価にはかなり厳しいものもあるが、好きな作家の評価がこのような肯定的なものであることがとてもうれしい。

これらの選考評価はそれぞれそのときの雑誌に全文が載っているみたいなので、図書館で見つけられるものなら読んでみたい。

いくつかのブログで「ラブレス」の感想を読んだりしながら、「ぐるり本棚」という新潮社のサイトのページに行き当たった。
そこに、「ラブレス」が全国書店員の投票による本屋大賞の一つであるらしい(よくは知らない)「突然、愛を伝えたくなる本」大賞を受賞したと書いてある。
また、「島清(しませ)恋愛文学賞」も受賞したらしい。
サイトには「国内唯一の恋愛小説文学賞として名高い」と書いてあるのだが、私ははじめて知った。

まあ私も強く感動した本がこのように評価されることは喜ばしいかぎりだ。

ところでこの本のタイトルがなぜ「ラブレス」なのだろう。
ネットで見るかぎり、カバーのデザイン(装丁)とこのタイトルは小説のなかみとあまりにもつり合わないという悪評ばかりだ。
この本を紹介してくれた知人もそう言っている。
私もそう思うのだが、装丁はさておいて、タイトルは桜木紫乃自身がつけたのだろう(そうだよね)から何か深い意味がありそう。

開拓時代からの百合恵一家のいっけんあまりにも愛のない生活と、最後まで作者の愛が注がれない弟たち。
このあたりに何かを思うのだが、そのへんの考察となると私の手にあまる。

「ラブレス」ではあるが、最後には男と女の愛、親の子を想う愛が本からあふれ出てくる。


◆ ナルコユリ(ユリ科アマドコロ属) ◆
ナルコユリ 2013.5.5撮影
住宅地の最高地にある墓地の最も上の竹林の中で見つけた。見た瞬間、ナルコユリ、アマドコロという名が浮かんだ。どちらも図鑑でおなじみなのだが、実物は見たことがあるかどうかというぐらいではっきり記憶がない。どちらも外見は区別がつかなくて、茎を触ってみて、丸っこいか角張っているかで判断できるとある。見つけたときはそんな知識はなかったので、本当はどちらなのかわからない。さらにはホウチャクソウという似たようなヤツもいたりする。次に同地を訪れたときには茎を触ってみることにしよう。

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