タイトルからして南アフリカ戦での引き分け狙いに触れざるを得ないだろうと思い、さてNHKがどのように扱うのだろうと多少期待はしたのだが。
この番組を見るまでは、引き分け狙いについての選手の意見は安藤と丸山を除いてはっきりわからなかった。
安藤は当初から監督を擁護する意見をネットで目にしていた。
さえない安藤を応援していたのに、この記事を読んでがっくりきたが、まあ聞かなかったことにしようと思った。
丸山も監督を支持している。
「メダルを取るためにはどんな手も尽くさないと」というようなばかげたことを言っているが、「監督の言うことは絶対」とも言っている。
他の選手たちは「監督に聞いてくれ」(たとえば宮間)みたいに意見表明を避けていたのではないか。
私としては選手たちはこの引き分け狙いをとてもいやなことだと思っていると思いたかったわけだ。
悪いことは全部監督のせいにして、女子サッカーを好きでいたかったのだ。
番組のプレタイトルの1シーン。
監督の引き分け狙いの指示に対して批判が相次ぎ、選手たちは戸惑う。
その戸惑いを克服し、チームをひとつにしたのは宮間の次のひとことだった。
「すべてを背負ってくれたノリさん(佐々木監督)の思いを無駄にしない」
このプレタイトルの中で、佐々木監督の反省はない。
私としてはとうに佐々木監督を見限っているからどうということもない。
だが、ああ宮間よ。
佐々木監督が勝手に火をつけたのだから、監督がすべてを背負うのはあたりまえではないか。
選手たちはひとつになって女子サッカーをおとしめた監督を擁護し、監督の不合理な思いを無駄にしないために決勝トーナメントを戦ったというのか。
番組の中では、予選リーグ・スウェーデン戦を引き分けた夜、沢と宮間が監督を訪ねたとある。
予選リーグで勝ちきれなかったことが悔しいと彼女たちが言う。
そして体力の温存が鍵だということになる。
勝ちきれなかったことが悔しいのなら、なぜ南アフリカ戦で勝とうとしなかったのか。
これでは引き分け狙いは最初から選手と監督の合作という構図だ。
そうであれば宮間の「すべてを背負ってくれた」発言も納得がいく。
さらに番組ナレーションが次のように言う。
「批判を一身に引き受け、選手たちを守った佐々木監督」
「批判をはね返すためには、自分たちが結果を出すしかないという決意がチームに広がった」
これでこの番組を作ったNHKの姿勢がはっきりする。
100%佐々木監督擁護、感動的ななでしこの物語というわけだ。
今回の件はすべて監督の責任であり、監督は誤りを認め全世界に向けて謝罪のうえ辞任、選手たちはひじょうに迷惑した、という形でしか日本女子サッカーの名誉は回復されないと思っていた。
この番組は見たくなかった。
今日の赤旗のスポーツ面には、番組でも紹介された大住良之のコラムがのっていた。
――ここから引用(赤旗2012.8.15付)
フェアプレーの根源問う
(冒頭部分省略)
さて、女子サッカー1次リーグ南アフリカ戦で、なでしこジャパンの佐々木則夫監督が準々決勝への移動の負担をなくすため、試合の途中に意図的に引き分けることを指示しました。
それについて、日本経済新聞の電子版に書いた「なでしこジャパンのフェアプレーはどこに行ったのか」という内容の私の記事が、多くのサッカーファンから大反論を受けました。
反論の趣旨は「戦略として当然の権利。世界中でやっている」ということだったと思います。
2002年からもう10年間も続けさせてもらっているこのコラムで、私はくり返し「勝つために全力を尽くすことこそ、フェアプレーで最も大事なポイント」と書いてきました。
私はなでしこジャパンも女子サッカーも心から応援していますが、間違ったことをしたと感じたときにはそう書かなければなりません。そうでなければ、このコラムで、うそを書き続けてきたことになってしまいます。
「サッカーファンの常識」はよくわかりませんが、あの試合をテレビの前で見ていた多くの人が、昨年来、なでしこジャパンに対して抱いていた好感との違和感を持ったのではないでしょうか。
そうした人々が、なでしこジャパンやサッカーを嫌いになってしまうのではないか、少なくとも関心を失ってしまうのではないかと心配です。
「サッカーが大好き」
唐突に聞こえるかもしれませんが、私はこれこそフェアプレーの根源だと考えています。(11年目にして明かす、大きな大きな秘密です)
サッカーが好きだから、一生懸命にサッカーに取り組んでいます。そのサッカーの価値を落とすのがアンフェアな行為であり、逆に、フェアプレー精神にあふれた行為はサッカーの価値を高めてくれると思うのです。
サッカーの価値が上がることは、それに一生懸命取り組んでいる自分自身の人生の価値が上がることにつながります。だからフェアプレーを大事にしたいのです。
もっともっと多くの人にサッカーの楽しさや美しさを知ってほしい。そして人生を豊かにしてほしい。逆に、サッカーという競技の魅力を殺しかねないものとは、徹底的に戦わなければならない―。それが私の思いです。
もちろん、「サッカー観」は人それぞれに違うでしょう。しかし佐々木監督の指示を賞賛あるいは容認した人々に、それが果たしてサッカーの価値を上げるものだったのか、少し考えていただきたいと思うのです。
引用ここまで――
大住氏の言う通り、私の女子サッカー熱は急速に冷めている。
◆2011年夏 北アルプスシリーズ 29 三俣蓮華岳から高瀬ダム
イワオウギ 2011.8.1撮影 |
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