2015年にドイツのメルケル首相が来日したとき、彼女の記念講演が朝日新聞社の浜離宮朝日ホールで行われた。
(ああ、メルケルは2021年12月8日に首相を退任し、政界を引退したのだった)
その記念講演と講演後の質疑応答のすべてはドイツ大使館のHPに掲載されている。
その中から原発問題に関する部分を抜き出してみる。
――ここからメルケルの講演会(2015/3/9)からの引用
2015.3.9 メルケルの来日記念講演 |
次に政治と女性の問題です。例えば、脱原発の決定という場合には、男性か女性かという違いは関係ないと思います。
この事故が、日本という高度な技術水準を持つ国で起きたからです。
そんな国でも、リスクがあり、事故は起きるのだということを如実に示しました。
このため、本当に予測不能なリスクというものがあり、私たちが現実に起こりうるとは思えないと考えていたリスクがあることが分かりました。
だからこそ、私は当時政権にいた多くの男性の同僚とともに脱原発の決定をくだしたのです。
ドイツの最後の原発は2022年に停止し、核の平和的利用の時代が終わって、私たちは別のエネルギー制度を築き上げるのだという決定です。
ですから、男性だから、女性だからという決定ではありません。
ですから、男性だから、女性だからという決定ではありません。
あくまでも政治的な決断であり、私という一人の人間が、長らく核の平和利用をうたっていた人間が決定したことなのです。
メルケルの講演会からの引用ここまで――
以上のメルケルの言葉は、次のような会場からの質問に対して行われたものなので、「政治と女性の問題」をふくんだ回答になっている。
メルケル首相は大学時代、物理を学んでいらしたということですが、日本では理系、特に物理方面に進む女性は少なく男性がほとんどです。
メルケル首相は東京電力福島第一原発(事故の)直後、原発全廃の決定を下しましたが、原発に携わるのもおのずと男性が多かったのではないかと思います。
また、日本では女性の政治家が少なく、女性の職業としての政治家は大変だという印象を持っています。
以上を踏まえた上で、今までの政治家人生で大変だったこと、とりわけ原発廃止を決定した際のことを聞かせて下さい。
意外なことに、メルケルは長年にわたって核の平和利用、つまり原発には賛成だったのだ。
案外知られていないことかもしれないが、メルケルの前のシュレーダー政権の時、ドイツは脱原発を決めていたのだ。
具体的には2002年に「脱原発法」が成立し、原発の運転期間を32年間とすることや新規原発の建設禁止などが定められた。
それを第2次メルケル政権が運転期間延長を盛り込んだ法律を議決し(2010年)、原発延命に舵を切った。
そのわずか1年後、福島原発事故が起こり、その教訓から講演会で述べているような顛末になった。
この件については、以前の私のブログ「メルケルの前で際立つ安倍の卑小さ」でも少し触れたので見ていただければうれしい。
ところで、メルケルが約束した完全脱原発の2022年がやってきた。
どうなるのだろう。
福島原発事故後も原発を重要なベースロード電源と位置づけ、2030年度における電源構成で原発の比率を20~22%とするエネルギー基本計画は今でも変わっていない。
原子力ムラの利権構造に固執する勢力に福島の教訓を期待することは土台無理のようだ。
「今だけ、金だけ、自分だけ」という本質を突いた表現は誰が言い出したのかは知らないが、まさにそういうことだ。
先日1月8日の赤旗に「財界年頭あいさつ」という記事があって、各財界代表の新年メッセージが紹介されている。
箇条書きに書き改めてみる。
▇ 十倉雅和(経団連会長)
原発の選択肢を排除することはありえない。
晴耕雨読の世界にはいまさら戻れず、(社会経済活動には)ベースロード(基幹)電源がいる。
▇ 桜田謙吾(経済同友会代表幹事)
2030年に温室効果ガス46%削減の目標を達成するのは簡単ではない。
原子力の問題が解決していない。
真正面から現状を直視ながら取り組んでいかないといけない。
▇三村明夫(日商会頭)
欧州がクリーンエネルギーに指定しようとしている原子力の位置付けを明確にしなければいけない。
▇ 橋本英二(日本鉄鋼連盟会長)
経済性・安定供給・環境適合のいずれの観点からも優れた電源である原子力発電については、安全性の確保を大前提に最大限活用することが不可欠。
▇ 東原敏昭(日本電機工業会会長)
原子力分野では、原子力の再稼働が重要である一方、「小型モジュール炉」も次世代電源として期待されています。
▇ 新井史朗(日本原子力産業協会理事長)
既存プラント再稼働の早期実現を含む、既存炉の最大限の活用、将来の新増設リプレースの実現に向かって取り組んでまいります。
このような財界のリーダーと、それに奉仕する自公政権、そしてどこまでもこの政権を支持し続ける国民。
この日本に未来はあるのだろうか。
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