確実な抑止力の維持といって、安倍政権以来アメリカ・米軍に対する卑屈さが際立っている。
最近の米軍基地を由来とするコロナ・オミクロン株の感染拡大でさえ、米軍に断固とした要請は「日米関係の抑止力は必要というのが政府の判断。毀損するようなことは判断しない」などと山際担当相が言うしまつ。
赤旗 2022.1.9付 |
昨年の週刊金曜日、6月18日号に載っていた記事だ。
赤旗以外の記事を全文そのまま転載するのは少し勇気がいるが、事柄の全容がとてもわかりやすいのでそうさせていただく。
なお、改行等WEB上で読みやすくするための編集を行い、写真は金曜日ではモノクロであるのを、WEB上から同じ写真のカラー版を探して使った。
――ここから転載(週刊金曜日 2021年6月18日号から)
蝶類研究者の宮城秋乃さんに沖縄県警が失笑の家宅捜索
米軍廃棄物の隠蔽を許すな!
「リュウキュウウラボシシジミ」というシジミ蝶の一種で、日本で最小級の蝶。
沖縄本島北部と西表島のみに生息する準絶滅危倶種。
清流が流れる自然度が高い場所にしか生息できないこの蝶がたくさんいれば、その地の自然の貴重さが証明されるといわれている。
「私は沖縄のこのチョウチョたちを守りたいのです」と語る蝶類研究者の宮城秋乃さん(42歳)が6月4日、沖縄県警から家宅捜索を受けた。
携帯電話、パソコン、カメラなどが押収され、自宅、倉庫、書類の写真が撮影された。
4日間続いた取り調べでは道路交通法違反、威力業務妨害、廃棄物処理法違反の容疑と説明された。
宮城さんのフィールド、やんばるの森(沖縄島北部)で発見した「米軍廃棄物」という「落とし物」を道路に並べ交通を妨害した、という。
しかし庭に置いてあった肝心の「米軍廃棄物」の袋は、外側の写真を撮るだけで中を調べもしなかったという失笑家宅捜索だった。
沖縄の米軍北部訓練場の正式名称は「ジャングル戦闘訓練センター」である。
亜熱帯気候の沖縄は高温多湿で、やんばるの森はまさにジャングル。
1950年代から主に海兵隊が密林での対ゲリラ戦を想定した訓練をしてきた。
上2点/米軍北部訓練場の門前に宮城さんがゴミ袋に入れて 「返しにいきました」という「米軍廃棄物」。 これが家宅捜査の理由? |
これらが地上に散乱していたり、埋もれていたり地中に埋められていたりしながら、高温多湿の環境の中でみな腐食、散乱、崩壊しており、環境破壊・汚染は想像を絶する。
訓練場跡地は、まさに米軍の「ゴミ箱」だった。
「自然界に本来存在しないモノが残っていて、生態系に悪影響を与えるかもしれない」との懸念から、宮城さんの研究対象は一時的に蝶から「米軍廃棄物」となってしまった(本人はもちろん早く蝶類研究者に戻りたいと願っています)。
背景に世界遺産登録問題
日米地位協定により、米軍は返還地の原状回復義務を負わない。
返還地の廃棄物や有害物質の調査・処理は国(防衛省)が担うことになっている。
だが沖縄防衛局はわずか8カ月の除去作業を行なっただけで17年12月に「支障除去の完了」を公表した。
米本国では通常10年以上が必要とされるほど、軍事基地・訓練地の汚染除去・原状回復は難しいとされている。
多種雑多膨大な量の「米軍廃棄物」を残存させながら「完了」としたのは世界自然遺産登録のためだ。
この地域は一度世界自然遺産登録に失敗している。
日本の自然遺産は屋久島(1993年)、白神山地(同)、知床(2005年)、小笠原諸島(11年)の4カ所。
5番目の推薦地が「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」。
しかしこの地域は18年5月にIUCN(国際自然保護連合)から「登録延期」という厳しい勧告を受け、政府は推薦を取り下げている。
実質"落第″の勧告内容は「遺産」選定地域の不適切だ。
約700キロメートルに広がる4島で推薦地は24地域に細分化され、沖縄と奄美だけで20カ所。
これら分断された「小さな飛び地(多くの地点が100ヘクタール以下)」では生物多様性は認めるが、独立した生態系として保全が難しいこと。
そして逆に日本が推薦地に入れていない米軍北部訓練場返還地を含めるべき、という指摘だった。
訓練場の返還は政府の旧「推薦書」提出期限の1カ月前の16年12月。
やんばるの森は天然記念物・絶滅危倶種のヤンバルクイナなどの多くの固有種の生息地でありながら、それぞれ小さな一部分だけが推薦地となっていた。
IUCNから世界遺産として保護・保全できる「十分な広さの生態系」の確保を求められた政府は、新たに訓練場返還地(約4000ヘクタール)を推薦地に含め、生物多様性に的を絞った推薦に方針を転換した。
米軍北部訓練場返還地は、日本最後の世界自然遺産候補にとっての必須条件となったのだ。
蝶類研究者を見せしめ?
やんばるの森の奥の「米軍廃棄物」の存在について、返還地の8割(国有地)を管轄する沖縄森林管理署(林野庁)は「世界自然遺産」勧告のためのIUCNの現地調査でも「バレない!」と確信をもっていたのだろうか?
返還地は18年6月に推薦地へ編入され、政府は19年2月ユネスコに「推薦書」を再提出した。
宮城さんは、米軍によるやんばるの自然破壊と、日本政府によるこの地域の世界自然遺産推薦の不自然さをさまざまな形(拾得物の届け出、ブログ、講演会、自然観察会、裁判での証言等)で訴え続けてきた。
「米軍廃棄物を完璧に除去し、原状回復をはかり、本当の『自然保護』をしてから、堂々と申請すればよいではないか?」と。
蝶類研究者の当然の思いだ。
前のめりに「世界自然遺産」を目指すのではなく、誰がどのようにやんばるの森を守ってゆくのか、ジックリみんなに考えてほしいのだ。
今年5月、報道各社は一斉に「奄美・沖縄」の「世界自然遺産」登録を報じた(7月正式決定の予定)。
貴重な動植物の宝庫であり生物多様性に富んでいることが評価されている。
しかし「米軍有害ゴミ撤去」は終了し「外来種除去」も整ったとするなど、一度頓挫した「世界遺産登録」のため重ねられた努力を美化する内容ばかりだ。
しかも登録勧告の『評価書』に「米軍廃棄物」への言及は一言もない。
膨大な「米軍廃棄物」を置き去りにしたままの「世界自然遺産」である。
やんばるの森の本当の主たち、生物多様性の生き証人たちにとって、誰が本当の味方なのか、語るまでもない。
蝶類研究者を見せしめ的に家宅捜索し取り調べを行なって、国は宮城さんの調査・発信を少しでも抑えたかった?
しかし目論見は完全に失敗している。
この件ですっかりふっきれた宮城さんは、ますます元気にやんばるの森に入り、「米軍廃棄物」の調査・告発に邁進するだろう。
詳しくは宮城さんのブログ「アキノ隊員の鱗翅体験」をぜひご覧いただきたい。
澤井正子・沖縄一坪反戦地主会関東ブロック
転載ここまで(金曜日のオンラインにも同じ記事があった)――
米軍の横暴身勝手は今に始まったことではなく驚くに値しないかもしれないが(それでもこの米軍廃棄物はすさまじい)、開いた口が塞がらないのは日本政府の対応だ。
日本政府、または沖縄県警は本来自分たちがしなければいけない廃棄物処理や自然保護などを宮城氏にやってもらっているのだから、彼女に感謝状を出すべきではないか。
ところが、那覇地検はこのたび宮城氏を在宅起訴した。
威力業務妨害と道路交通法違反で起訴とあるが、沖縄県警は廃棄物処理法、清掃法違反でも書類送検したが、それは那覇地検が不起訴にしている。
沖縄県警、那覇地検、沖縄防衛局、防衛省、日本政府はいったい全体なんのためにあるのか、誰のために仕事をしているのか。
すべて米軍廃棄物といっしょにアメリカへ捨ててきてほしい。
なお、赤旗では上記12月30日付の記事以外では、8月31日に1度だけ宮城氏の記事を掲載した。
この赤旗記事は1面の3分の2を使ったカラー写真満載の力の入ったもので、米軍廃棄物を告発する点では説得力のあるものではあったが、週刊金曜日で報道されているように、宮城氏がその活動によって県警から理不尽な家宅捜査を受けたことにはふれていない。
◆ セイタカアワダチソウ(キク科アキノキリンソウ属)◆
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