2021年3月23日火曜日

「チーム・オベリベリ」乃南アサ著 外見も中身も分厚く重い

10日ほど前、図書館から予約した本が届いたと通知があった。
コロナ禍などで一時図書館も閉鎖されたりして、久しぶりの通知だった。
予約した本は何冊もあるし、どれが届いたのか分からず受け取りにいくと、「チーム・オベリベリ」という本だった。

題名に記憶がない。
しかも、分厚く重い。
帰って計ってみると、厚さ4.7センチ、重さ761グラム。
672ページ。
単行本1冊でこれほどの物を手にした記憶がない。
せめて上下二巻に分冊してくれればいいものを。
就寝時に寝っ転がって読むので、持っているだけでたいへんだ。
ブログ「蜜蜂と遠雷」にも書いたが、遅読なので返却期限の2週間で読み終えることができるのか不安がよぎる。
結果的には就寝時以外にも読みふけって8日間で読むことができた。

題名に記憶がないと書いたが、次のような本だった。
赤旗 2020.8.9付
昨年の8月9日に赤旗の記事を目にして、すぐに図書館へ予約したと思われる。
7カ月余ですっかり忘れているのも歳のせいか。

渡辺勝とカネの結婚写真(1883年)
オベリベリとは北海道の帯広のことだった。

北海道開拓の物語だが、巻末の参考資料を見ると、十勝地方の開拓にはいくつもの文献があって、事実にもとにしたフィクションではあっても、かなり歴史的事実に沿った物語だと推察される。
チーム・オベリベリのチームとは、依田勉三、鈴木銃太朗、渡辺勝の3人のことだが(赤旗の解説では渡辺カネもチームの一員にしている)、歴史的には資本家である実力者の弟、依田勉三が開拓の功労者として扱われているようだ。
乃南アサはその依田勉三を少し脇に置いて、鈴木一家、つまり、カネから見ると父親の親長と兄の銃太郎の3人+カネの夫になった渡辺勝の4人を中心に据え、物語はカネの視点ですすめている。

カネ自身が依田勉三と鈴木重太朗、渡辺勝の3人をチームと捉えているのだが、私などは依田を除いて上記4人こそチーム・オベリベリだと思える。

この本の眼目は北海道開拓がいかに過酷な試練だったかを余すことなく伝えることにあるようだが、そしてそれは十分に果たされているように思うが、私は彼ら・彼女らがいかにアイヌと接してきたかの事実に心を奪われた。

アイヌと日本の関わりについては、それは奈良時代からあったようで、江戸時代初期から松前藩による侵略が本格化し、明治になってアイヌモシリは北海道となり完全に日本の一部になってしまった。

少数民族の問題はほとんどの国で大なり小なりあるもので、日本ではアイヌ民族をめぐってさまざまな問題が出来する。

ごく最近では無知な芸能人とテレビ局による「あ、犬」発言があったし、ここ数年はアイヌの遺骨問題が大きな話題となった。

この遺骨問題に関しては、昨年9月にETV特集「帰郷の日は遠く~アイヌ遺骨返還の行方~」でくわしく取り上げていた。
鈴木家 渡辺家の集い
勝手にアイヌの遺骨をこそ泥のようにして墓から掘り出し研究材料にしていた。
返還はしたものの、反省はするが、法律違反として犯罪になったことはないから謝罪はしないとうそぶく東大の現役准教授の姿に悲しい日本の現実が凝縮されているようで腹立たしい。

というようにアイヌのことを語り出したら切りがなくなるので、別の機会にしてチーム・オベリベリに戻る。

カネの家族4人は100%アイヌを対等な隣人と見なし、助け合って道を切り開いていく。
銃太郎などはアイヌの幸せのために奔走し、果てはアイヌの娘と結ばれる。

下手な解説はやめて、本文から気に入った一節を引用する。

 カネが自分から口を開くと、コカトアンは俯いたまま、「私はコカトアンです」と小さな声で言った。それから、そっとこちらを見る。カネは、その瞳に向かってにっこりと微笑んで見せた。すると、コカトアンも、半ば躊躇するような表情のまま、ぎこちなく頬を緩める。
 「コカトアン、前に言ったろう。カネは俺の妹だ。心配するな、怖い人ではないから」
 兄上がコカトアンに話しかける。その表情を見ていて、カネはまた、「ああ」と思った。兄上の目つきが、この上もなく優しげに見えたからだ。兄上は本当に、この娘を愛おしくてたまらないのを、辛うじて表に出すまいとしているようにさえ見えた。そして、その視線を受け止めるコカトアンの方もまた、その大きな瞳一杯に、尊敬とも愛慕とも受け取れる、なんとも言えない甘やかな表情をたたえている。カネは微笑ましいような気恥ずかしいような気持ちになりながら、改めてコカトアンに頷いて見せた。
 「私は怖くありませんよ。安心してね」
 どの程度の会話ができるのかよく分からないから、とにかく微笑みかけながら彼女の二の腕の辺りにそっと触れて、それからカネは兄上に向き直った。
 「父上、昨夜は一睡もなさらなかったみたい。今やっと少し落ち着いて眠っておられるわ」
 二、三日は様子を見た方がいいだろうから、その間は毎日、顔を出すようにするとカネが言うと、兄上は静かに「分かった」と頷いた。そしてまた、コカトアンと顔を見合わせて微笑みあっている。見ている方が照れくさくていたたまれないほどだ。カネは、最後に改めてコカトアンに微笑んで見せてから、早々に帰路につくことにした。

この物語はチーム・オベリベリが解体し、開拓の明るい展望も見えないまま苦難の途上で終わってしまう。

天主さま。
これからも、きっと私は大丈夫ですね。
これからも、私はこうしてオベリベリで生きていくのですね。
家族が暮らす貧しい家の向こうには、果てしなく広がる青空に、まばゆいばかりの白い夏雲が湧き上がっていた。

という文学的に希望を予感させながらピリオドとなる。

最後の2ページに「補遺」として、その後の主人公たちの消息が述べられる。
が、これだけでは読後感としては欲求不満が残ってしまう。

同じ分量で重たくてもいいので、この4人の幸せがたくさん感じられるような続編を書いてもらえないだろうか。

 追記 2021.4.26 

今日の赤旗一面に次のようなコラムが載った。
赤旗 2021.4.26 レイアウトは変えた
「カネの家族4人は100%アイヌを対等な隣人と見なし、助け合って道を切り開いていく」と本文に書いたが、彼らの思いとは無関係に彼ら自身がアイヌモシリを植民地化する尖兵になっていた歴史的事実は無視できない。
この関係は、過去、西欧諸国がアジア・アフリカ・アメリカ大陸を植民地化するための尖兵として、キリスト教布教に命をかけた善意の宣教師を送り出した歴史と重なるものがある。


◆ スミレ(スミレ科スミレ属)◆

スミレ 2015.4.12撮影
この街中の道ばたに列をなして咲くスミレの美しさはどうだろう。これが町内会のクリーン作戦で根こそぎ雑草として引き抜かれるなんて、なにかがまちがっている。

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