2014年1月12日日曜日

小津安二郎「東京物語」はなぜ世界一なのか

10年以上前に小津安二郎の「東京物語」を初めて観たとき、なぜこんな映画が高い評価を得ているのだろうかと不思議に思った。

それから数年して、私の母といっしょにこの映画を見たのだが、母は10分ぐらい観て「なんじゃこれは」とつぶやいて、観るのをやめてしまった。
私は最後まで観たが、やはりつまらなかった。

NHK・BSプレミアムが2年間かけて放送した「山田洋次が選んだ日本の名作100本」の最後の映画「男はつらいよ」が放映された昨年3月5日、「名作100本を振り返る」ということで、山田監督を招いて山本晋也、小野文恵と3人が対談していた。

その中で紹介された視聴者が選んだベスト5で、「東京物語」は家族編の中で第3位だった。
その場面での山本晋也と山田洋次の会話。

山田「日本一の映画ですから」
山本「今や世界一」
山田「世界一です。世界一の映画が1953年に作られている。それ以後の映画がそれを抜けない」

何を言っているのかわからない。
日本一というのは彼らがそう思っていることは理解しているのだが、なぜ世界一なのか。
いくら何でもそれは言い過ぎではないか。

実はそのとき画面の右下に「『東京物語』は2012年世界の映画監督358人が選ぶベストワン映画に選出された」という小さな字幕が出ていたのだが、短時間だったこともあり気づかなかった。

山田洋次が選ぶシリーズの喜劇編についてはブログに書いた。
家族編を含む100選については宿題になっていたから、昨年11月に「東京物語」を録画DVDで3回目の視聴をした。
視聴直後評価は星一つ(★)。

先ほどの番組の続きで、「(東京物語を)若いとき観たときはつまらないと思っていました。それが今観たら変わっていました」という30代女性の手紙を小野文恵が紹介していた。
今30代だから、若いときというのは10代だったのかどうかわからないが、私など、40代で観たときはつまらないと思っていたが、今観てもつまらなかったということになる。

昨年の12月12日、NHK・BSプレミアムで「小津安二郎・没後50年 隠された視線」という番組を観た。
そこで初めて「東京物語」が英国映画協会(BFI)の「映画監督が選ぶベスト映画」で1位になったことを知る。
山田洋次や山本晋也が「東京物語は世界一」といっていたのはこのことかと遅ればせながら合点がいった。
シネマトゥデイ」から
BFIは10年ごとにそれまでの映画史上でのベスト映画を選出している。
過去2回(1992年と2002年)はオーソン・ウェルズの「市民ケーン」が1位で、私はその映画を2回見たのだが、なぜこの映画が?と思っていたところ、今回は「東京物語」が1位。
本当に驚いてしまう。
British Film Institute」から
BFIは評論家が選んだベスト映画も選出している。
というか、そもそもこちらの方だけだったのが、前々回から監督が選んだベスト映画も発表するようになった。
同上
「東京物語」は評論家が選ぶ方で、前々回が3位、前回が5位、今回が3位。
監督が選ぶ方では、今回が初出にもかかわらず1位!

年間のベストではないのだ。
10年間のベストでもない。
その時点の映画史上の世界一なのだ。
信じられるだろうか。
あり得ないというしかいいようがない。

退屈な映画だ。
出演している俳優も好きではない。
この私の評価(シンプルきわまりないが)とのギャップはアンドロメダ星雲以上に離れている。

では「東京物語」のどこがいいのか、どこが世界一なのか。

BFIで「東京物語」を1位に選んだ監督や3位に選んだ批評家の意見を聞きたくていろいろ調べるのだが、見つからない。

2013.12.12 NHK・BSプレミアム
昨年12月12日にNHK・BSプレミアムで放送された「小津安二郎・没後50年 隠された視線」という番組をあらためて注視したが、さっぱりわからない。

番組内でBFIの映画批評家トニー・レインズという人が小津について次のように語っている。

映画史上、小津ほど繊細な映像表現ができた映画作家はいません。それは画面内のディテールや編集を見れば明らかです。小津は今とはちがい、自分の作家性を自由に追求できる時代環境にいました。我々の知っているかつての映画は今死に絶えつつあり、その中で映画監督たちは、そんな小津に深い羨望を感じているのです。

この批評は小津作品全体についてのものであって、「東京物語」がなぜ世界一なのかはわからない。
このNHKの番組で「東京物語」の映像表現で触れていることは、「隠された映像」ということだ。

大事なことは見せることではなくて隠す、観客が想像力で考えてくれる、というわけ。
「東京物語」では、看板だけで店は映らない、玄関はあっても家はない、俳優が見ている東京の街は観客には見えない、次男の遺影はアップにはならない、の4点をあげている。

だから世界一なのか?
なわけない。

小津の「東京物語」の製作意図は、撮影台本によれば「親と子の関係を描きたい」だ。
親子の関係を描いた映画はそれこそ数え切れないぐらいあるだろう。

映画監督の吉田喜重は、小津が言いたかったことは、人生は残酷であり、それに耐えて生きていくことだと言っている。
戦争、大恋愛、殺人など映画監督がすぐやりたがるテーマではなく、何でもない話を何でもなく描きながら、反復の結果、人命は死に至る、ということを小津は描いているとも言っている。

だから世界一なのか?
なわけないだろう。

番組では、繊細な映像表現ということで、小津独特の撮影手法をいくつか取りあげていた。
小津は赤の発色にこだわった。
赤いやかん、赤いシャツ、赤いテーブル、赤い電話、赤いネオン…。

赤いやかんが物語の進行に応じて位置を変えていく。
赤いおわんが誰もさわっていないのに移動している。
映像の連続性よりも1枚1枚の絵を完璧に作り込むことにこだわる。

このような観点から小津を評価することに異論はないが、だから世界一と言われればそれはないだろうと言いたい。
「東京物語」は白黒の映画だし。

けっきょくBFIのベスト映画選出に関わった監督や評論家の「東京物語」に関する具体的評価は目にしていないわけだが、おそらく次のようには言えるのではないか。

「東京物語」は映画のプロから見れば世界の映画史上最高峰の作品だが、私のようなしろうとから見ると、退屈でつまらない。

「東京物語」がいい映画だという一般人はたくさんいると思う。
でも映画史上世界一の映画だと自信をもっていえる一般人はどのくらいいるのだろう。

以上、私自身の映画鑑賞能力の貧しさを明らかにしただけのブログかもしれない。
「山田洋次が選んだ日本の名作100選」の続編については後日書くつもり。


◆ ヤノネボンテンカ(アオイ科ヤノネボンテンカ属) ◆
ヤノネボンテンカ 2013.8.22撮影
河原の草むらの中で目立っていた。花の姿からフヨウのなかまだとわかるが(ムクゲにも似ている)、野生のフヨウなのか、園芸種が逃げ出したものかわからない。ネットでフヨウで画像検索すると、アメリカフヨウというのがよく似ていたが、このアメリカフヨウというやつはばかでかい花だ。写真のフヨウは直径5センチぐらいの普通サイズ。特徴的なめしべの形に着目してさらに調べていくと、ついに見つけた。ヤノネボンテンカ(矢の根梵天花)。初めて聞く名だ。別名タカサゴフヨウといって、南米が原産地らしい。

28 件のコメント:

  1. まさしく、だからこそ東京物語は、あなたの感性を試す踏み絵なのではないでしょうか?

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  2. そうなのかなとも思うけれど、それにしても映画史上世界一ということがどうしてもわからない。

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  3. 好みの問題ではないでしょうか?
    自分が好きでない映画の批評に触れても腑に落ちないのは自然な反応だと思います。

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  4. 好みの問題ということはわかりますが、世界の映画史上のベスト1だということが腑に落ちないのです。せめて日本の映画史上ベスト1というのであれば、へえ~そうなの、ですますこともできるのですが。

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  5. 記事を拝見させていただきました。

    あまり気になさることはないと思います。こういう少し難しい映画はある程度数を見ないとなかなか慣れないし、慣れても退屈だったり堅苦しく感じることは普通です。
    しかし何本も見て映画の意味がわかるようになったり、実際の人生経験が積み重なると「あ、そうだったのか」とスッと自然に入るようになってきます。

    太陽様の映画の感想をいくつか見させていただきましたが、太陽様は「物事がはっきりした映画」がお好みなのだと思いました。
    それはつまり具体的な政治問題が映画の中心に置かれたり、主人公たちの社会的問題や家庭問題がはっきり描かれ、「こうするべき」という作り手のメッセージがはっきり示される映画のことです。
    あと具体的なハッピーエンド、もしくはバットエンドがはっきりと描かれる映画です。
    これらは「娯楽映画」と呼ばれるもので、多くの人が好むものです。

    しかし映画や演劇や小説の作り手の中には、より難解な「観念的な作品」と呼ばれる作品をを作る人たちがいます。
    これらの作品の特徴は映画の中の物事がはっきり示されないことです。
    なぜそういう風に作るかというと、現実の世界では本当は何が正しくて何が悪いかはっきりとはわからないため、その感覚をこれらの作り手たちは忠実に再現しようとします。
    「東京物語」の小津安二郎や、「シンレッドライン」のテレンス・マリックなどはその典型といえます。

    こういう作品は、これが正しいこれが悪いとはっきり台詞では言いません。善人悪人もはっきりしません。メッセージも台詞で説明されません。ひたすら日常的な台詞と観念的な台詞が続くだけです。
    ですがその積み重ねの中でだんだん人生の不条理や、この世界の抱える矛盾のようなものが浮き彫りになって、最後には強烈なメッセージになるように計算されて作られているのです。

    「東京物語」がなぜ世界的に評価されるかというと、東京に住んでる家族の心が離れていく姿が、単にこの家族だけの話でなく世界中すべての家族に重なってくるように意図的に作られているからです。しかしこれだけならそれまでの外国の映画にもありました。
    この映画はそれだけで終わらず、笠智衆演じるおじいさんや原節子演じる未亡人の姿を通して、さらに深いところに落ちていき、誰もが抱える人間の孤独を描きました。
    これによって世界中の誰が見てもわが身のように登場人物に感情移入できる「普遍性」を
    獲得しました。
    「普遍性」というのが重要で、世界的に評価される映画にかならず求められます。

    東京に住む家族の描写の「リアル」さ。
    説明的な台詞を一切使わずに人間の本質(東京物語で言えば「孤独」)まで切り込む「物語力」。
    世界中の人間が感情移入できるキャラクターの「普遍性」。
    これらを際立たせる小津の芸術的な画面作り。

    これをすべて両立させた本作はまさに神業で、そこがこの作品が評価される理由になっています。

    長文失礼いたしました。

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  6. 誠実で深みのあるコメント、ありがとうございました。
    私のようなブログのためにと思い、恐縮しています。

    確かに、3年前にテレビで「シン・レッド・ライン」を観たとき、★5段階評価(2年前から始めた)以外感想などほとんど書かないのですが、「3時間近い自己満足作品」と最低評価をしていました。

    酒井さんのコメントには、なるほどと思う反面、納得できないところもたくさんあるのですが、とにかく感謝です。

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  7. とても、面白くブログ内容拝見しました。
    こういった映画で、一部の通が評価し、自分があまり面白くなかった場合、
    大体において「この映画は糞」というような罵詈雑言で自らのプライドを守る人が
    多いのですが、太陽さんはまったく違っていて、とても興味深かったし
    好感が持てた。わからないことをわからないとして、ご自分の論を展開していて
    とても面白かったです。

    何故、世界一か・・・私もわかりません。でも良い映画だと思うし、刻み込まれた映画のひとつではあります。

    世界で評価される理由はいくつかあると推測ですが思います。
    ①作家性 静物画のようなシーンがたくさんあり、映像が芸術的だというところだと思います。
    特に世界に受けるのは、上でも述べられているように日本絵画のような静謐さがあり、外国人にとっては異国情緒満載だからだと思います。西欧の日常と異なる日本だからだという点も大きい。要は下駄をはいている。
    その異国性ゆえに、この映画から建築家などは多大なインスピレーションを与えられたりしています。

    この作家性は、日本だとすぐに自己満足というような批判を特にネットでは受けます。
    逆に雑誌媒体などでは、過剰に評価されがちですね。
    結局は、この作家性の映画での評価は日本では成熟していないのだろうと思います。
    日本ではストーリー重視なので。どうしても、テレビドラマの影響が強い。
    さらに映画離れで、作家性の強い作品が公開されなくなってきてるのも、ますます、
    映画的楽しみや、表現の素晴らしさを感じることができなくなってる一因。
    映画が、小説のようには表現の仕方で評価されることが一般の中では少ないようです。
    このような淡々とした描き方で、じわじわと人を感じさせるものは、とても
    優れた映像作家しかできないでしょう。そこには舌を巻きます。
    この映画への程度の低い批判として「ホームドラマだ」という
    ものがあります。はて、何故、家族を映画の題材にしてはいけないのか、
    自分の映画的享受力の無さを棚に一顧だにせず、研鑽された方々の作品を
    ネットとはいえ無自覚に乱暴に批判する人はどうなんだろうと思うことがあります。
    太陽さんはそうではなかったところにとても好感を持ち、こうやってコメントして
    います。

    ②技術の革新性
    これは、時代の差があり、今となっては使い古された手法などもあるだろうから、映画学校で勉強するような、映画監督になるために勉強するような人やマニアでなければ、
    単純には感じないと思います。かく言う私もほとんど感じない一人です。
    たとえば、欽ちゃんのお笑いは既に昇華されて、いたるところで、自然と使われて
    いるので、今の時代の人が見ても革新性は感じないように。
    ③普遍性 
    前の方がおっしゃったとおりだと思います。
    嘘偽りなく、人間を真摯にとらえて、真摯に表現していると私も感じます。
    自然にこの家族がいるような、感情移入をさせていってると思います。
    それは、やはり深い洞察と丁寧な映像表現というところがあるからこそだと
    思います。いちいち、うわーこの映像凄いなあ、スケールあるなあ、と、こけおどし
    演出をしていない粋さがさらに自然さを増していると思います。
    私も伴侶を亡くしているのですが、この数年経過した伴侶への思い、矛盾や葛藤や寂しさ実家との距離感は、経験者でなければわからないほどの複雑さなのに、それをいとも簡単に、正確に表現しています。それが自然な感情移入を呼ぶのだと思います。

    というところで、私は好きな映画です。素晴らしい、静かな、人間に
    眼差しを向けた作品だと思います。
    ただし、私も現代に生きる人間として、何が世界一かはまったくわからない。

    でも、そもそも、映画を含め、表現に世界一とか二位とか、あまり意味のある
    ことでもないように思うし。

    ただ、映画でよく思うのですが、映画を味わうという作業は(他の表現物も同様)、
    受け手の側の感受性や経験にすごくよるところがあり、日本で年数本見ている人と、
    映画監督や海外批評家とでは、同じ映画でもひっかかりどころや感心するところが、
    まったく違うと思っていてよいと思います。
    またお笑いでいいますが、たとえば松本のねじれの妙などの凄さは、70歳以上の
    人にはぴんと来ないでしょう。それは、やはり脈々と、たけし、タモリ、様々な
    お笑いを自然にテレビで見て来たからこそで、たけしあたりから拒絶している世代には
    ピンと来ないように。
    それと同じで、映画的感受性が違うだけだと思いますし、それが違おうが、オリジナルであろうがかまわないことだと思います。あるから偉いわけでもない。
    ただ、そこに無自覚に、糞だと断罪することだけは間違ってると思うのです。


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  8. このようにきちんとした説得力ある映画批評をコメントしていただき、酒井さんのときもそうでしたが、本当に恐縮しています。
    ありがとうございました。

    私は仕事をしていた時期はほとんど映画は観ませんでした。
    でも、早期退職をして時間ができ、かなりの数の映画を観てきました。
    当初は年間30本から50本は映画館で観ました。。
    最近はそこまで元気がなくなり、昨年は14本しか映画館では観ていません。

    テレビでは毎日のように観ています。
    ほとんどNHK・BSプレミアムですが。
    NHKは何度も同じ映画を放映し、私はすでに観ているのにタイトルだけでは思い出せず、また観てしまうといったことが何度も続き、それを防ぐために2010年の4月4日から記録を取り始めました。
    今年の4月3日までに、つまり4年間ですが、831本観ました。

    別に自慢したいわけではなく、これだけ観ても「こんた」さんのような映画評はできないなと思い、自らの才のなさにあきれたりするわけです。

    ということで、しばらくコメントを何度も読み直して、折に触れ考えてみようと思います。

    追伸1 私はまだ70には遠いのですが、こんたさんが言われるように「たけしあたりから拒絶している」もののひとりで、松本は顔がわからす、ひょっとしたら一度も見ていないかも知れません。

    追伸2 「無自覚に、糞だと断罪」する愚を私は何度か犯しているようです。
    これは今後気をつけようと思います。

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  9. 私は現在73歳です。「東京物語」は私が13歳の時に、父が映写技師として勤めていた映画館で見ました。福岡県筑後地方にあるその映画館は松竹映画の封切り館でした。当時は映画全盛期の時代でした。明治30年生まれの父は青年期に文学を夢見ていた人です。私は九番目に生まれた末っ子ですが、父は良い映画を観たら子供達に観るように勧めました。「東京物語」は我が家の皆が感激した小津安二郎の作品です。父は笠智衆に似ていました。木訥ながら何処か求道的な雰囲気を漂わせ、物静かで嘘のつけない父が最も愛した映画が「東京物語」です。小太りでおっとりしていた画面の中の妻(東山千栄子)の風貌も母と似ていましたので、父はこの映画に、我が家の行く末を感じていたのかもしれません。
    昔初めて見た時は、ふうたんぬるい(テンポが緩いこと)映画だと思いましたが、歳を重ねる毎に、しみじみとした哀感が伝わってきて、素晴らしい映画だと思うようになりました。
     父が短歌を紹介します。
         我が写す映画東京物語身につまされて涙し流る
    父母が他界し、兄や姉もこの世を去りました。実家も今はありません。この映画を観た頃の家族の絆を、なつかしく思い出します。

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  10. ご家族の大切な記憶に基づくご意見、ありがとうございました。

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  11. 小津監督の映画は低い位置のカメラが見上げるように撮っています。またカメラが移動しながらの映像はない、画面右からのフレームインが多い。
    これらは視聴者を疲れさせない工夫だそうです。劇場ではスクリーンを見上げるような格好で見るわけですし、右目が利き目の人が多いから。結果ストレスなく自然に映画の中に没入できます。

    そんなささいな技術的なことはともかく、最大の特徴は登場人物はすべて普通の庶民であり、普通の言葉で普通のことしか喋っていない、という点です。難しいことは一切喋っていない。

    技術的なことに加えて日常のことしか映さないことを「五・七・五という厳しい言葉の戒律の中に日常的で具体的なことしか詠みこまないのに、天地悠久なるものすべてを表現してしまう、俳句との類似を感じてならない」と映画評論家の白井佳夫さんが言っています。まさに、と思います。

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  12. 40歳台ですか。
    小津作品の良さは人生を折り返して終着点が見えはじめた年齢にならないと中々分らないと思いますよ。
    もちろんただ年齢を重ねた人がすべて分るというものでもないのですが、世界一かどうかは別にして私は東京物語は日本映画屈指の名作だと感じています。

    しかし世界の名監督がベストワンに選んだのは、少し別の意味合いがあると思います。
    古今東西人間の人生にとって最も大切なものであろう家族をテーマにしていることにつけ、既に色々な方が述べられておりますが、テクニカルの面で小津ワールドといいますか独特のローアングルから左右対称の構図、どのカットを見てもそれが一つの絵画になるような計算されたバランスのよさと美しさ、優れた文学作品の言葉による描写を映像で表現している芸術性の高さ。

    ただ英語の字幕版で世界の監督たちが本当にこの映画の良さを感じることができるのか大きな疑問なのも確かです。
    年老いた両親の何とも言えない尾道弁での「アリガト・・」は日本人の心に響きますが、英語字幕では兄姉の東京弁も弟の大阪弁も両親の尾道弁もすべて同じなのです。

    また脚本家の山田太一氏が述べてますが、ラストシーン近くの紀子がズルインデスを3回
    言う会話の場面は、名作の中で唯一シナリオの「瑕瑾」だと長い間思っていたそうです。
    私自身も紀子のセリフとしては若干の違和感を感じていたシーンだったのです。

    ところがある時山田太一氏は小津安二郎の軍服姿の写真を見てその考え方が変わったのだそうです。
    映画が上映されたのは1953年、1950年からの朝鮮戦争の特需により経済は急激に拡大し、高度経済成長へと繋がる希望が見え始めた時代。
    もう8年前の敗戦も遠い昔のように感じる時に、小津安二郎は紀子に戦死した夫を思い出さない日もあるズルイデスと3回も言わせた。
    山田太一氏はそれは紀子の亡き夫だけではなく、戦争で無くなった多くの同世代の戦友に対して、もはや忘れ去ろうとしている時代への小津安二郎の心の叫びが紀子を通してメッセージされているのではないかと考えたそうです。
    私はそれを聞いておそらくそうだろうと直感しました。
    改めて凄い作品だと感じました。
    人生のゴールが見え始めたと感じた年齢になった時、もう一度「東京物語」を観て下さい。

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  13. 恥ずかしながら、というのも変ですが、60代前半です。
    私が「東京物語」に疑問を呈しているのは、次の2点です。
     ①「東京物語」はなぜ映画史上世界一なのか。
     ②そもそも「東京物語」はすばらしい映画なのか。
    ①については、「こんた」さんは「私もわかりません」とおっしゃっていますし、直前の匿名さんも「世界一かどうかはべつにして」と言われています。
    つまり、世界一についてはどなたの意見も私の疑問の答えにはなっていません。
    ②についてですが、これについてはすべての方が文句なしにすばらしい映画だと言っています。
    世界一とは断言できないが、そうであってもおかしくない映画だという評価です。
    みなさんの「東京物語」に対しての論評や思い入れをコメントしていただき、とてもありがたく思っています。
    私もいくつもの点で「なるほど」と納得し、感心もしました。
    しかしながら、私には「東京物語」はとてもいい映画だとは思えないのです。
    この点についてはもう少しくわしく自分の意見を述べるべきですが、またの機会にしようと思います。

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  14. >つまり、世界一についてはどなたの意見も私の疑問の答えにはなっていません。
    前回山田太一氏の話をしたものです。

    世界一(順位はその都度入れ替わるので世界有数)ので考えますと、既出の小津ワールド
    の芸術性、テクニカルな面は他の小津映画でも見られることから、「東京物語」だけが何故世界で突出して評価されたのかを考えました。

    世界の映画で洋の東西を問わず人間の人生をテーマにしたものは星の数ほどあります。
    それは親子物語であったり、兄弟であったり、また一族であったり、血縁関係がなくとも夫婦愛や恋愛、友情を描いたものです。

    ところが、東京物語にはもう一つの要素があり、まさにそれが紀子の存在です。

    紀子は広い意味で家族の一員ですが、両親兄弟とは血縁関係もなく、夫は何年も前に戦死しているので戸籍上は離婚していなくとも本来は外野の存在です。

    にも係わらず、年老いた両親に対して家族の誰よりも親切で優しく接します。
    そしてまた両親も紀子に対して心から感謝しその行く末を心配しています。

    著しく劣化している昨今の日本人ですが、当時はまだ紀子のような女性を画いても違和感のない社会があったのだと思いますし、実際私自身も紀子のような女性を知っております。

    個人主義が徹底している欧米のみならず、世界中の監督たちが何故東京物語を突出して高く評価した最大の利用は、全く自分たちにはない日本人のこの様な価値を持った人たちの姿に驚き、人間として素直に感動があったのではないでしょうか。

    そしてそれは決して偽善的ではなく、ファンタジーでもなく、紀子の女としての葛藤も正直にリアルに画かれている。

    小津ワールドの質の高さ。
    年月と共に家族の立ち位置がそれぞれ変化していく人生模様や、誰もが経験する老いから死別、そして孤独という普遍的なテーマ。
    そこに紀子という世界で唯一日本人がかつて持っていた (もう過去の遺物になりつつあります) 徳という素晴らしい要素を加味することで、他に類がない作品になり、そこが世界一の評価につながったのではないでしょうか。 (あくまで私見です。)


    ところで太陽さんは個人的にどの映画が世界一だと感じますか。
    たとえば○○○○と答えたとします、そして何故世界一が理由を語ったとします。

    がその映画のどこが良いのか分らない人はたくさん出て来るでしょう。

    人の価値観はそれぞれ違います。
    あまり世界一にこだわることはないと思います。






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  15. 失礼します。
    私は20代で、生涯で観た映画の本数も100作に達してないと思います。小津監督の作品は本作だけです。
    ただこの映画はものすごいと思うのです。

    この映画は昭和28年の日本の記録映画なんだと思います。何も言っていない。
    ストーリーもあるにはありますが、もっとも起伏のある部分、残酷に無礼な姉(精進落しの席で遺品どうこうも大概ですが、危篤の電報で喪服を持っていくかどうかなんて凄まじい!)を「ああなりたくはないけど、みんなそうなっていく、そういうもの」としてふわっと隅にやってしまいます。良いとも悪いとも言ってない。

    ストーリーも主張もない、ただ昭和28年の日本を映している。しかしおそらく映像美と撮影技術とテンポで退屈にならない、没入して観れてしまうのです。
    だからこそ誰もが自分を、自分の家族を、その変遷を投影できるんだと思います。
     自分は家族をおもんばかっているか、姉のようになってないか、家族はどうか、変わったとすると転換点はいつだったか…
    日本人外人、老若男女、誰でも考えられることだと思います。もう映画を離れて視聴者が自分自身のことを考え始める。

    だれもが違う、自分たち自身の歴史を想い、また10年後20年後観たその時々で思い浮かぶことも変わってるでしょうが、最終的にはいつもここに行くと思います。美しくありたい。

    奇跡のような映画です。

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  16. 「奇跡のような映画」というのは最高の褒め言葉ですね。
    そうであれば世界歴代1位というのも理解できるような気がします。

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  17. 古い記事を見てコメントしますが、私的にOZUは世界一と言ってもいいけど
    オンリーワンだと思います。またはジャンルOZUですね。
    そのジャンルの中にはOZUさんしかいない。だってOZUさんのような映画を作った人いるんですか?
    私はマニアじゃないから比較判断できないけど、こんなありきたりな素材で深く胸をしめつけ
    感動させる人なんていないでしょ。何かしらハプニングがあり悲劇があるのが映画だと思うのですが
    OZUさんはそこから遠く離れていますから。

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    1. 今田あさえ2015年12月6日 0:14




      名場面や名台詞なんてないけど時の流れの前での人の儚さや無常が随所にみられる作品です。ラスト近くで伴侶を失った周吉と紀子が別れの挨拶を交わした後に流れる小学生の無邪気な歌声は私の胸に深く余韻を残します。小津監督の作品は一言で説明するのが難しいですが、人間の内面を見据えつつ、自己の美意識(美学?)も追求されていると思います。
      東京物語が世界的に高評なのは映画を観終わった後も何かが残るからではないでしょいか。


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  18. 今田あさえ2015年12月5日 23:52

    名場面や名台詞はないけれど、よく観ると時の流れの無常が表現されていると思います。ラスト近くで互いに伴侶を失った周吉と紀子の別れのシーンのあと小学生の無邪気な歌声の流れてくる場面は私の胸に深く余韻を残します。この監督の作品の味わいは一言で説明するのが非常に難しいのですが人間の内面を見据えつつ、自己の美意識(美学かな?)を極限まで追求した人なのでしょうね。東京物語が世界一の映画になったのは観終わった後しばらく小津さんの世界に入り込んでしまうからかなという気がします。

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  19. 原節子が亡くなっていたということが最近ニュースになり、それで私のこのブログ記事へのアクセスが一時的に増えました。
    その中でコメントをいただいたのは今田あさえさんだけでした。
    ありがとうございました。
    東京物語についてはまた書きたい気もするのですが、私自身の評価は以前と変わっていません。
    映画史上世界一などということはまったく私の頭では理解できないことです。

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  20. 原節子さん自身、小津作品のように様々な推測を抱かせるような(本人の意図は関係なく)生き方をされたのだと、また感銘を受けました。
    最後のコメントを見て思いましたが、理解出来ないという方に無理に理解させようとする人がいないから、コメントがないのではないでしょうか?
    自分自身がとても感銘を受けた映画であれば、世界一と言われても納得出来ますが、自分自身がいい映画と思えないものは、世界一と言われても納得出来ないのではと思います。
    日本一ならわかるけれどと書かれておりましたが、日本でも世界でも同じように感銘を受けた方々が大勢いたから、世界一と評価されたのではないでしょうか?
    私自身も、何本観たか量は覚えておりませんが、今まで観た映画の中で一番好きな映画ですので、そういう意味では世界一と思えます。
    通りすがりで失礼しました。

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  21. 通りすがりのコメントありがとうございました。
    「山田洋次が選んだ日本の名作100本」の最後で、その百本のなかで視聴者が選んだベスト10だったかを発表していました。
    「東京物語」は3位だったと思います。
    ちなみにベスト1は「人間の条件」でした。
    私もかねてから日本映画のベスト1は「人間の条件」だと思っていましたので、この結果はとてもうれしく思いました。
    ただ、それが映画史上世界一かといわれればどうだろうかと考えてしまいます。

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  22. 太陽さんの文章、スタンスがとても素敵だと思い、また勝手に共感したのでコメントさせてください。
    私も東京物語に心酔する者の一人です。ですが、なぜ世界一なのかぴんとこないんです。人それぞれ感性が違うのは重々承知しているつもりではありますが、ただ感性の問題なのか。人それぞれ好きな物はちがうのから。価値観の違い、人生経験、、、んー、もっとそれらを超えた物があるのではないか。と思ったりもしますが、そういった事を前提に立ちつつも、自分なりに考えるのが大切だなと考えさせられました。

    さて、世界一の理由についてですが、私自身その理由が知りたく「東京物語 なぜ」と検索したところ太陽さんのページがトップに表示されたんです。

    世界で評価されているという事は普遍性というのがポイントかと思いました。日本もそうですが、変わっていく時代の流れと、それになかなか簡単についていけられない「家族」というのがあって、その溝があらゆるところでできていて、静かに問題が発生しているというのは先進国共通の事なのではないでしょうか。
    歴史や文化をこえた物が評価につながっている気がします。

    最後に東京物語と小津監督についてに対談動画がありましたのでURLを貼っておきます。

    小津安二郎没後50年西部邁ゼミナール 2013年12月7日放送https://www.youtube.com/watch?v=a-kmJrz1Uk8

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  23. なぜか、『正月に小津安二郎を観る』というキーワードが思い浮かび検索したところ、こちらにたどり着きました。
    私はいま50代で、20代の頃、映画学校に通ってました。
    小津作品はその頃に初めて観たと記憶しています。
    ストーリーは単純で、淡々とした描写。
    なのになぜか惹きつけられて見入ってしまう。
    その後、サイレント時代からの多くの小津作品を観ました。

    世界一かどうかについてですが、人種、年齢、性別、生まれ育った環境、感性などによって違ってくるのは当然です。
    投票した全ての映画監督が1位にしたのではなく、結果的に票が1番多く集まった作品だということなのだと思います。
    小津安二郎が好きでブルーレイ化された作品を集めているところですが、同じく黒澤明作品も大好きで、コレクションしてますよ。
    映画青年だった頃も今も、どの作品が世界一とか考えたこともありませんし、投票結果に興味は持ちますが、『へえ、この映画そんなに評価されてるのか』と思うだけで終了です(笑)
    ただ日本の映画が一位になると、やっぱり日本人としてうれしいもんですよ。

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  24. この次の発表の時は、ベスト10から消えてるかもね
    映画の順位を気にすることはないですよ
    いろんな映画もどんどん見ましょう。特に昔の日本映画を
    そしたら、また小津作品を見たくなる時が来るかもしれません
    その時は、こんな順番で見るといいですよ
    「晩春」「麦秋」「東京物語」それから
    「お早よう」「彼岸花」「秋日和」「秋刀魚の味」ここまで見れば
    もう安心(何が安心だか)
    日本に、小津監督がいてよかったなー
    あなたも、そう思えると いいですね

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  25. 日本映画はいやになるぐらい観ました。あなたが紹介されている小津作品もすべて観ました。
    そして、小津に限らず、日本映画のあまりにもくだらない作品(特に昔の映画)の多さにがっかりしています。

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  26. 富士山の形のように、くだらない多くの映画の上に、少しのいい映画がある。
    昔も今も、そしてどこの国でも同じでしょうね。映画を作るという作業は、それだけ難しく大変な仕事なのでしょう。私も昔の日本映画のくだらない作品の多さにがっくりしていますが、昔の日本の面白い映画の多さにビックリしています。矛盾してますがね。
    私の第1位は「第三の男」なのですが、ベスト10にも入っていません。
    全く納得がいきません。いったい何番なのでしょうかね。
    第2位は「2001年宇宙の旅」」、第3位は「さすらいのカウボーイ」です
    太陽さんのベスト1はなんでしょかね?

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  27. 共感してしまうコメントありがとうございます。
    「第三の男」は批評家が選ぶ方で73位になっていますね。
    2011年の「史上最高のイギリス映画ベスト100」(英『タイム・アウト』誌発表)では第2位(Wikipediaによる)ですから、とてもいい映画なんでしょう。
    私は「第三の男」はずいぶん前に観ているのですが、内容は今はっきり思い出せません。
    機会があればまた必ず観ることにします。
    私の第1位はというと、これは簡単には言えません。
    そもそも「映画史上ベストテン」も各人が順位を付けずに10作品選ぶ方法なんですね。
    そこで候補をいくつかあげるとすれば、「鉄道員」「ニュー・シネマ・パラダイス」「サウンド・オブ・ミュージック」「ショーシャンクの空に」「オレンジと太陽」「オペラ座の怪人」などです。
    チャップリンの「独裁者」や「キッド」「ライムライト」などの一連の作品も候補にあげたいです。
    自分のなかで十分な吟味ができていないので、これらの候補はとりあえずといったところです。
    邦画では文句なしに「人間の条件」です。
    これは、山田洋次の100選をNHKBSで放送した時、視聴者がその中で選んだベスト1でもありました。
    実は、このブログ「東京物語」については、みなさんのまじめなコメントが多くて、私ももう一度あらためて近いうちに投稿をしなければと思っています。

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