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2021年3月3日水曜日

ニワトリの幸せ

赤旗 2020.11.6付
昨年の11月6日に右のような小さな赤旗記事を目にして目をむいた。 

ミンク1500万匹殺処分!

1500匹ではない。
1500万匹!

途方もない数だ。
ちなみにデンマークの人口は580万人だ。

NationalGeographicから
さらに、野生にしても飼育にしても、毛皮のために動物を殺すなどという野蛮なことは20世紀の終盤にはとうに廃れたものだと思っていたものだから、それが、しかもデンマークという世界に名だたる福祉国家が世界最大の毛皮生産国だったということと合わせて驚いてしまった。

世界一幸福な国デンマークというのは、もちろんそこに住む国民の幸福のことだが、それにしてもミンクにとっては世界一不幸な国になっているのはどう考えるべきか。
この不幸なミンクのくわしいことはNationalGeographicの記事にゆずることにして本題に入ろう。

デンマークのミンク殺処分の記事を読んだとき、すぐに過去日本でも何度もあった鳥インフルエンザによるニワトリの殺処分のことが思い浮かんだ。
そして、間髪を入れずというか、上記赤旗記事と同じ日の紙面の次の記事が目に入った。
赤旗 2020.11.6付 赤枠は筆者
ニワトリと人間を比較してもしょうがないとは思うが、たとえば、広島の某家族3人が新型コロナに感染したことが発覚したので、広島市民120万人を殺処分しました、ということになる。
デンマークのミンクに例えれば、日本人1億2千万人を殺処分しましたってことかな。

この日本の鳥インフルエンザによるニワトリの不幸はこの日を引き金にして続いていくことになる。
以下、赤旗の記事から見出しを中心に箇条書きにしてみる(見逃した記事あり)。

 2020.11.10 鳥インフル香川2例目 東かがわ市 4万6000羽殺処分
 2020.11.16 鳥インフル 香川5例目 三豊市 7万9千羽殺処分
 2020.11.21 鳥インフル発生 85万羽殺処分へ 香川・三豊市 6養鶏場
 2020.11.26 福岡で鳥インフル 9例目 香川以外は初 宗像市 9万3500殺処分
 2020.11.27 鳥インフル拡大 兵庫・淡路市で発生 3県10例目 14万6000羽殺処分
 2020.12.02 宮崎でも鳥インフル 今年4県目 4万羽を殺処分
 2020.12.03 香川9・10例目 三豊市 37万3000羽殺処分
 2020.12.03 渡り鳥原因か これまでに200万羽殺処分 過去最多
 2020.12.04 鳥インフル 宮崎・都城市でも 3万6000羽殺処分
 2020.12.08 広島・三原市で鳥インフル 国内6県目 13万4000羽殺処分
 2020.12.09 宮崎5例目 鳥インフル 小林市 4万3000羽殺処分
 2020.12.12 岡山・美作市で鳥インフル 64万羽殺処分 9県に拡大 
 2020.12.15 3県で鳥インフル
        宮崎・日向市 5万3000羽殺処分
        宮崎市 12万6000羽殺処分
        滋賀・東近江市 1万羽殺処分
 2020.12.16 高知で初 鳥インフルか 3万2000羽殺処分
 2020.12.16 鳥インフル拡大 全国26例 合わせて殺処分は335万羽
 2020.12.17 高知で感染確認 鳥インフル 11県に拡大
        高知・宿毛市 3万2000羽殺処分
        香川・三豊市 2万9000羽殺処分
 2020.12.20 鳥インフル 徳島初 感染拡大続く 宮崎では8例目
        徳島・阿波市 1万羽殺処分
        宮崎市 3万4000羽殺処分
 2020.12.21 養鶏場に「1割不備」
        今シーズン殺処分されたニワトリは341万羽で過去最多
 2020.12.25 千葉・いすみ市でも鳥インフル 116万羽殺処分 1事例では過去最多
 2020.12.31 宮崎9例目鳥インフル 小林市 15万4000羽を殺処分
 2021.01.03 鳥インフル 岐阜・美濃加茂市で発生 6万8000羽殺処分
 2021.01.12 鳥インフル 千葉・いすみ市 2例目確認 114万5000羽殺処分
 2021.01.24 鳥インフル 富山・小矢部市で発生 14万1000羽殺処分
 2021.02.02 鳥インフル 宮崎・新富町で発生 8万羽殺処分
 2021.02.05 千葉でまた鳥インフル 匝瑳市と旭市で17万羽殺処分
 2021.02.07 千葉で鳥インフル 今シーズン6例目 旭市 42万羽を殺処分
 2021.02.08 鳥インフル 感染が拡大 千葉と宮崎で発生
        千葉・多古町 115万羽殺処分 宮崎 24万羽殺処分
 2021.02.09 鳥インフル 千葉で8例目 匝瑳市 25万羽殺処分
        千葉県殺処分累計430万羽
 2021.02.10 鳥インフル 徳島2例目 美馬市 8000羽殺処分へ 
 2021.02.12 千葉2カ所 鳥インフル 匝瑳市 約36万羽を殺処分
 2021.02.16 千葉鳥インフル 今季11例目 匝瑳市 3万9000羽殺処分
 2021.02.26 宮崎で再び鳥インフル 都城市 3万9000羽殺処分

ここまで合計何羽のニワトリが殺処分されたことになるのか。
2020.12.21の赤旗が「今シーズン殺処分されたニワトリは341万羽で過去最多」とあるので、それ以降の各記事の数字を合わせてみると、2月26日現在で883万4000羽となる。

ちょっと不謹慎なようだが、ナチス・ホロコーストの600万を超える(それにしてもデンマークのミンク1500万匹殺処分は想像を絶する)。

「殺処分」という言葉はひじょうに不快なものだ。
生き物に対しての畏敬の念とまでは言わないけれど、命あるものに対しての憐憫の情をまったく欠いている

殺処分はどのような方法で行われるのだろう。
茨城県の西家畜保健所が「鳥インフルエンザ発生時の鶏処分方法」をネットに載せている。
それによると、ポリバケツ、輸送コンテナ、鶏舎などに詰め込んで、二酸化炭素を吹き込み窒息死させるらしい。

なお、この保健所の記述には、処分されるニワトリへの憐れみなどは微塵もない。
いかに効率的に、また作業者への負担を軽減させるかに眼目を置いた記述だ。
それはしょうがないだろうと言われそうだが、それでも反吐が出そうだ。

Animal Rights Centerから
殺処分のニワトリは、死ぬときでさえ苦しみ抜いて死んでいく(窒息死、圧死)。
死ぬときでさえ、というのは、生きている間も苦しみ抜いているからだ。
家畜の中で、鶏卵用のニワトリほど、むごい生活を強いられているものはないのではないか。
すべての生き物の中でと言ってもいいのかもしれない。

私の漠然としたイメージでは、ほとんど身動きができないような狭いケージ(バタリーケージという)に詰め込まれ、病気にならないように抗生物質を打ち続けられ、ただ卵を産むためだけに餌を食べる一生。
しかし、このようなイメージはまちがってはいないけれど、現実はまったくその残虐さにおいて想像を超えるものだった。




アニマルウェルフェア(略してAW)という言葉を最近よく耳にするようになった。

アキタフーズという鶏卵業者と農水省の大臣や官僚との贈収賄・接待などが表面化したのが12月初め。
鳥インフルによるニワトリの殺処分が日本のあちこちで行われるようになった時期とほぼ重なる。
赤旗 2020.12.3付 赤線は筆者
この鶏卵業界における政官民癒着の腐敗報道の中でアニマルウェルフェアという言葉が日の当たる場所へ出てきたという事実は皮肉だ。

アニマルウェルフェアについては本ブログでも「牛の幸せ アニマルウェルフェア」で触れた。
「動物福祉」「家畜福祉」などと訳されることが多いが、正確には「快適性に配慮した家畜の飼養管理」と定義されているらしい。

らしいというのは、今回の稿を書くにあたっていろいろWEB検索していく中で、「公益社団法人 畜産技術協会」というところが発行している「アニマルウェルフェアの向上を目指して 採卵鶏」というパンフレットを見つけた。
そのパンフレットはとてもよくできたもので、上記定義もそこから引用させてもらった。

以下「パンフ」と略していくつか引用させていただく。
上記「パンフ」から
採卵鶏のAWについては、

EUでは、2012年以降、採卵鶏をバタリーケージで飼育することが禁止され、巣箱や砂遊び場、止まり木、爪研ぎなどの設備を備えた施設で飼育することが義務づけられています。
また、アメリカでは、鶏卵を扱う主要産業(外食産業や卸売業者)が、ケージ飼育する生産者からの卵の購入を制限する動きや、大手生産者がケージ飼育から平飼いなどに転換するといった動きが増え、さらにいくつかの州ではこれらを法的に義務づけるなど、世界的な流れとして採卵鶏のケージ飼育が問題視されています(「パンフ」P.14)。

採卵鶏に限らず、EUでは牛や豚などの家畜においても早くからAWの具体的とりくみがすすみむなかで、

我が国では、平成21年(2009年)3月に「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針」が公表され、平成25年(2013年)6月の「動物の愛護及び管理に係わる法律」の改正の際に「産業動物の飼養及び保管に関する基準」の中で快適性に配慮した飼養管理が謳われるようになりました(「パンフ」P.2)。

というように指針や法律までできてAWの推進に力を入れてきたはずなのに、現実は一向に改善されていないようだ。

ところでこの「パンフ」はA4全16ページのかなり詳細なものだが、「パンフ」というだけあって、写真が多用され、レイアウトも工夫がなされてとても読みやすくわかりやすい。
いつからこんなにがんばって啓蒙しているのかと発行年を探したが、どこにも見当たらない。

そこでメールで問い合わせたところ、翌日返事が来て、2014年3月の発行だとわかった。
つまり、今年で7年になるわけだ。
この「財団法人 畜産技術協会」は「パンフ」だけでなく、さまざまな活動を繰り広げていることがHPからわかる。
なのになぜ実態は改善されないのか。

そこにアキタフーズと経産省の黒い癒着が明らかになり、なるほどと思わせた。

アキタフーズは、上記赤旗記事にあるように、農水相や官僚に「AWの国際基準が日本の養鶏業者の負担にならないよう働き掛け」たわけだ。

この「パンフ」は「アニマルウェルフェアに対応した飼養管理技術確立事業」(日本中競馬界畜産振興事業)で作成したと最終ページに書いてあるので、当然所管は農水省だろうと思い、調べてみた。

それでようやく見つけたのが農水省HPの奥深くにある平成27年(2015年)3月、農林水産省発行の「鶏の改良増殖目標」という文書。
この文書の「Ⅱ 改良増殖目標 2 改良目標 (2)能力向上に資する取組 ②飼養・衛生管理 イ」の項目に次のように書いている(10ページ中のP.8)。

我が国の実態を踏まえて社団法人畜産技術協会(当時)が平成23年3月 に公表した「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏/ブロイラ ーの飼養管理指針」の周知及びその普及。 
 
畜産技術協会の「パンフ」は2014年発行だから、農水省が言っている平成23年、つまり2011年に公表した云々の文書はこの「パンフ」ではない。
この「パンフ」を発行する3年前にかなり専門的な文書(業者向けの文書)「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏/ブロイラ ーの飼養管理指針」を出したわけだ。

つまり、農水省はAWを推進する立場でありながら、裏では業者からの贈収賄・接待を受けながら、AW推進の障壁となっていたのだ。
赤旗 2020.12.7付 赤枠は筆者
国際基準の巣箱や止まり木の設置は確かに業者の大きな負担になるだろう。
しかし、畜産技術協会の「パンフ」には次のように書かれている。

AWと生産コストの関係を考えた場合、餌や温熱環境、衛生環境の改善等といった家畜の健康性に直結する最低限のAWを保証することは、疾病のリスクが減り、治療コスト等を低減させることができ、更に、健康な家畜であることにより生産性の向上もつながります(「パンフ」P.4)。

なんと説得力のあるすばらしい解説だろう。
「疾病のリスクが減り」ということは、今回の鳥インフルエンザも防げた可能性がある。

この事件にかかわった元農水大臣、農水官僚、アキタフーズ(業界の代表)の罪は重い。
1000万羽に及ぼうとするニワトリの殺処分、そして今まで続いてきたニワトリたちの生き地獄に対する償いをどうつけようとするのか。
それこそ殺処分しかないのではないか(ここは聞き流していただきたい)。

畜産技術協会にメールで次のように問い合わせてみた。

幸せなニワトリ
早速のご回答ありがとうございました(発行年を聞いた回答のこと)。
あの立派なパンフレットは7年前に発行されたわけですね。
そこで私が思うのは、この7年間で日本の養鶏業界、とりわけ鶏卵業界の実態はどの程度改善されたのだろうかと思うのです。
そして、昨年末から明るみに出たアキタフーズの農水相・農水省官僚接待問題について、畜産技術協会としてはどのような見解をお持ちなのか、大きな関心があります。
私は単なる一市井の人間なのですが、昨年末からの鳥インフルによる1000万羽に達するような膨大な数の殺処分されたニワトリに心を痛めています。
この「殺処分」という非情な言葉の響きとともに、業界や政治・行政のあまりにひどい実態、また、「殺処分」という言葉を何の躊躇もなく当たり前のように使って恥じないメディアの有り様など、腹立たしく思っているところです。
ということで、無理は言いませんが、可能ならば畜産技術協会の見解を聞かせていただければうれしいです。

この回答はその日に届いた。
全文紹介するのは信義にもとるような気がするのでひかえるが、質問に対してはまったくのゼロ回答で、引き続きAWの考え方の普及にがんばりたいと述べているだけの内容だった。
ここにも忖度や保身があるのだろうか。


◆ アンズ(バラ科サクラ属)◆

アンズとヒヨドリ 2015.3.20撮影
近くの小川の土手に毎年20メートルぐらいの花道ができる。ウメ、アンズ、モモ、サクラ、みんな似ていて区別がつかない。樹木には弱いのだ。通りがかりの人がこれはアンズだよと教えてくれたので信じている。今年もそろそろ咲く時期だ。

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