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2021年2月22日月曜日

戦争加害を背景にした映画数の比較しようのない日独の差 しかし「スパイの妻」が生まれた

Wendy広島 2月号1面部分
Wendy広島」というマンションライフのための無料情報誌(タブロイド判)が月初めに郵便受けに入る。
マンションライフに特化した内容ではなく、さまざまな情報が豊かに詰まっていてけっこう楽しめる。

この情報誌の最終ページは映画情報で、その月の話題の映画が29本簡潔に紹介されていて、6つの映画館での上映スケジュールも載っている。

さて今月号だが、あらためてよく見てみると、あることに気づいた。
紹介されている29本の映画(洋画20本、邦画9本)の内、ナチス・ホロコーストを背景にしているものが5本もあるのだ。

Wendy広島 2月号から編集
今月号が特別なのかと思い、Wendy広島のHPで過去12カ月分をすべて調べて見た。

昨年3・4月号は各1本、5・6月号はなぜか映画情報なし(コロナのせい?)、7月号は0、8月号は1本、9~11月号は0、12月号は3本、先月1月号は2本。

ということで、たまたま今月号の5本は特に多い月だった。

左に紹介した2月号に載っていた5本以外で、Wendy広島に紹介のあった同様の映画は「ヒトラーに盗られたうさぎ」「お名前はアドルフ?」「名もなき生涯」「ジョジョ・ラビット」の4本があり、1年間で、計9本のナチス・ホロコースト関連の映画を紹介していたことになる。

世界でこの1年間に製作されたこの種の映画がすべて日本で上映されたわけではないと思うので、最低9本は製作されたということになる。

ちなみにこの9本の映画の製作国は、

異端の鳥」チェコ・スロバキア・ウクライナ合作
ソニア ナチスの女スパイ」ノルウェー
キーパー ある兵士の奇跡」イギリス・ドイツ合作
この世界に残されて」ハンガリー
アーニャは、きっと来る」イギリス・ベルギー合作
ヒトラーに盗られたうさぎ」ドイツ
お名前はアドルフ?」ドイツ
名もなき生涯」アメリカ・ドイツ合作
ジョジョ・ラビット」アメリカ

アメリカ、ヨーロッパ各国、そして何よりドイツ自身。
多くの国々が毎年ナチス・ホロコーストを背景とした映画を作り続けている。
毎年10本以上の作品が生まれるとしたら、戦後75年で800本近い映画が作られているのではないだろうか(まったくの推測です)。

そして、私の見聞きする限り、そのほとんどが名作だ。
最も古いものはチャップリンの「独裁者」(1940年 アメリカ)だと思う。
近年では「シンドラーのリスト」(1994年 アメリカ)、「戦場のピアニスト」(2002年 フランス・ドイツ・イギリス・ポーランド合作)、「愛を読むひと」(2008年 アメリカ・ドイツ合作)などの作品が思い出され、どれも深く胸に刻まれて忘れられない。

この1年間で上映された上記9作品で私が観たものは「アーニャは、きっと来る」「ジョジョ・ラビット」「この世界に残されて」の3作品に過ぎないが、どれもお薦めだ。

これらおびただしい作品の中で、ドイツ自身が製作したものがいくつぐらいあるのか見当もつかないが、数百のレベルではないかと勝手に思っている。

これらの映画は、ナチス・ホロコーストは歴史的事実だということを自明の前提として作られている(一部極右勢力が作った例外もあるかもしれないが)。

ひるがえって日本はどうだろう。

戦争映画はたくさんあるが、それは多くが戦争を美化するものになっている。
戦争の悲惨さを描いたものもけっこうあるが、そのほとんどは原爆や空襲の被害、戦時下における庶民の抑圧された暮らし、戦場における日本軍の苦境などを扱っている。

つまり、戦争の加害責任を告発するような、またその加害行為によって生まれたドラマを映画化したものなどほとんどないのではないか。

名作「戦場のメリークリスマス」(1983年 大島渚監督 日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド合作)は、日本軍の侵略性も背景の一部にはなってはいるが、この稿ではナチス・ホロコーストと対比して考えているので、その観点では日本の中国侵略を背景とした映画が日本で作られたことがあるのかということだ。

私が知っている限りにおいては、「人間の条件」(1959~1961年)しかない。
全6部構成で、私は学生時代に土曜日のオールナイトで一挙上映(9時間31分)したのを観た。
日本映画史の最高傑作だと思っている。

2013年 NHK BSシネマから
そう思っているのは私だけではない。
NHKのBSシネマで2011年から2013年
にかけて放送した「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本」のなかで、視聴者が選んだ「反響が大きかった作品」、つまり人気投票でも「人間の条件」が世界映画史上1位の「東京物語」を抑えて1位になった。

映画の評価は今回のテーマではなかったので、話を元にもどす。

洋画と邦画を比較したときの、この戦争加害を背景にした映画数の圧倒的な差はどうだろう。

洋画と邦画と書いたが、煎じ詰めれば日独の歴史認識の差だ。

ドイツ検察はつい先日も100歳の強制収容所元看守を起訴した。
赤旗 2021.2.10付
100歳の元看守を、95歳の元秘書をと思ったりもするが、ドイツの自国の戦争責任を追及する姿勢は徹底している。

毎年、さまざまな節目に大統領をはじめ政権中枢のメンバーがホロコーストをはじめとする自国の戦争犯罪に言及し、謝罪し、許しを請う。
そこまでしなければドイツは国際社会からの信頼を維持できないと覚悟しているようだ。
そして現実にドイツは国際社会の中で確たる位置を占め、メルケル首相はその道徳的権威をまとい、世界のトップリーダーとして輝いている。

過去の教訓を現在、未来に生かす。
そんな当たり前といえば当たり前の思想が数多くのすぐれた映画を作り出すことにつながっているのではないか。

日本がそのような映画をつくることができないのは、要するに政権の主流派がドイツとは真逆の態度であることにつきる。

いまだに自民党歴代総理大臣は先の大戦を侵略戦争とは認めず、未来の歴史家が判断をするなどとふざけたことを言う。
のみならず、「アジア開放の聖戦」と美化し、南京大虐殺、731部隊、万人坑、強制連行、従軍慰安婦などなど、侵略戦争での蛮行を何一つ認めようとしない。

侵略的事実を一つでも認めようとすれば、それは「自虐史観」だなどとわけのわからない論理で攻撃をしかけてくる。

自虐も他虐もない、あるのは歴史的事実だけというごく簡単なことさえ理解できないやからたちだ。

ついてに言っておくと、世間では彼らのことを「歴史修正主義者」とよんでいるが、それはやめていただきたい。
「修正」というのは正しく直すという意味だ。
彼らは「歴史隠蔽主義者」もしくは「歴史歪曲主義者」なのだ。

そんなだからいつまでたっても日本は世界から尊敬されず、アメリカのポチとしての存在感しかない。
そして日本の主流派政治的リーダたちの不道徳さがきわだち、彼らを支持する多くの国民の民度の低さに絶望を覚えたりもする。

話がつい横道にそれそうになって困るが、主題にもどる。

政権の主流派が「歴史隠蔽主義者」である以上、「シンドラーのリスト」のような映画を作る勇気を持った映画人は現れないし、できたところで、それを上映する勇気ある映画館もないのが日本の現状だ。

例えば「ジョン・ラーベ~南京のシンドラー~」(ドイツ・フランス・中国合作)という南京大虐殺を扱った映画が2009年にできたが、日本で上映する映画館は皆無だった(例外的に有志的な会が自主上映をした)。
しょうがないので、私はDVDを買って観た。

ところがである。
今年のというか、2020年のキネマ旬報ベストテンの第1位は「スパイの妻」に決定した。

本稿で、いままで邦画には「人間の条件」以外戦争加害を背景としたものはない、そんな映画は日本ではタブーなんだという意味のこと自分で言ってきたのだが、実は昨年そのような映画ができた!

それが「スパイの妻」であり、あの極悪非道極まる731部隊を告発する勇気ある映画なのだ。

先にベネチア国際映画祭銀獅子賞を取ったものだから、日本での上映もかなったのかもしれない。
私も封切館で観て、大きな感慨を覚えた。
ついに日本でもこのような映画ができ、商業映画館で上映された。
しかもキネマ旬報ベストテンの第1位に選出!

これで歴史の流れが変わるなどと楽観的なことはちっとも思ってはいないが、とにかく画期的なことだと喜んでいる。


 五島列島シリーズ㊸  ◆ 太古(フェリー)◆

宇久島から博多へ 2018.5.12撮影

2018年5月5日に長崎から福江島に渡り、5月12日五島列島最北端の島、宇久島からフェリー「太古」で博多へもどった。7泊8日の旅で、途中車が壊れそうになったり、最後は腰痛も出たりもしたが、大過なく気ままな旅を終えた。この連載も気づけば43回まで引っ張っていた。次回からはまた近辺の身近な草花や鳥などを載せていきたい。

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