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2017年8月8日火曜日

日本国憲法の誕生 ⑦民政局はなぜ短期間で草案をつくることができたのか<1> 民間憲法草案

角川ソフィア文庫
極東委員会の発足が2月16日に迫るなかで、マッカーサーが日本政府を見限り、GHQ民政局に憲法草案を作成するよう命じたのが2月3日。
その草案ができあがったのが2月10日という説があって、これが安倍も言っている「たった8日間で…」の根拠なのだが、じっさいには2月11日まで作業は持ち越している。

つまり、9日間で草案はできたのだが、どちらにしても「たった9日間で…」ということで、ひじょうな短期間であることにはちがいない。
*鈴木昭典著「日本国憲法を生んだ密室の九日間」(角川ソフィア文庫)では、2月4日から2月12日の9日間としている。

民政局のメンバーが安倍の言うように「全く素人の人たち」ではないにしても、いや、むしろまれに見る優秀なメンバーだったとしても一国の憲法の草案を作り上げるには無理があるのではないか。

もちろん民政局は不眠不休に近い形でこの9日間を草案づくりに没頭した。
それにしても、と誰しも思うが、その背景にはそれを可能にしたいくつかの要因があった。

民間(政党を含む)の憲法改正の動き

近衛、松本らの官側の改正案については述べたが、民間の憲法改正についての動きはどうだったのだろう。

民間の憲法改正草案はわかっているだけで10数種類あるそうだが、政府のを含めて主なものをあげてみる。
*川村俊夫著「日本国憲法はこうして生まれた」(本の泉社)から

1945. 11.1 日本共産党「新憲法の骨子」
12.3 憲法研究会「憲法草案要綱」
12.3 高野岩三郎「憲法改正私案要綱」
12.3 稲田正次私案
12 清瀬一郎案
12 布施辰治「憲法改正私案」
1946.  1.21 大日本弁護士連合会案
 1.21 日本自由党「憲法改正要綱」
 2. 1 (「憲法問題調査委員会案」を「毎日」がスクープ)
 2. 8 憲法問題調査委員会「憲法改正案大綱」をGHQに提出
 2.13 (マッカーサー草案の呈示<非公開>)
 2.13 日本進歩党「憲法改正案要綱」
 2.23 日本社会党「新憲法要綱」
 3. 5 憲法懇談会「日本国憲法草案」
 3. 6 政府「帝国憲法改正草案要綱」
 4.17 政府「憲法改正草案」
 6.28 日本共産党「日本人民共和国憲法草案」

青字の案は2月3日以前のもの、つまりマッカーサー草案になにがしかの影響を与えたかもしれない。
赤字は政府案である。

各政党の憲法改正案

戦後、日本共産党の初代書記長をつとめた徳田球一は、1945年10月10日、GHQの「5大改革」の一環として、他の政治犯とともに出獄している。
つまり、それまで日本政府は政治犯を自主的に釈放しようとはしなかったわけだ。
宮本謙治は前日の10月9日に出獄。
日本共産党は長い非合法活動から解き放たれて、表舞台での活動をさっそく開始する。

政党の中で最も早く新憲法に関しての案を提示したのが共産党だ。
1945年11月1日、「新憲法の骨子」として発表。

  日本共産党「新憲法の骨子」(1945年11月1日)

一、 主権は人民に在り。
二、 民主議会は主権を管理す、民主議会は十八歳以上の選挙権、被選挙権の基礎の上に立つ、民主議会は政府を構成する人々を選挙する。
三、 政府は、民主議会に責任を負ふ、議会の決定を遂行しないか、又はその遂行が不十分であるかあるいは曲げた場合、その他不正の行為あるものに対しては即時止めさせる。
四、 人民は、政治的、経済的、社会的に自由であり且つ議会および政府を監視し批判する自由を確保する。
五、 人民の生活権、労働権、教育される権利を具体的設備を以て保証する。
六、 階級的並びに民族的差別の根本的廃止。

あとから次々に出てくる各政党の旧態依然とした改正案と比べれば、「骨子」とはいえ、この共産党の、天皇制を否定して主権は国民にあることを高らかに掲げた新憲法案はさすがといえる。

共産党は、のちの1946年6月28日に政府案に対抗する形でこの「骨子」を全面的に条文化した「日本人民共和国憲法草案」を発表するが、これについてはずっと後で触れるかもしれない。

1946年になって、共産党以外の各政党は次々と改憲構想を発表する。

 ●1946年1月21日 日本自由党「憲法改正要綱」
        一、統治権ノ主体ハ日本国家ナリ      
        二、天皇ハ統治権ノ総覧者ナリ
        三、天皇ハ万世一系ナリ

 ●1946年2月14日 日本進歩党「憲法改正案要綱」
        天皇ハ臣民ノ輔翼ニ依リ憲法ノ条規ニ従ヒ統治権ヲ行フ

 ●1946年2月23日 日本社会党「新憲法要綱」
        主権は国家(天皇を含む国民共同体)に在り

安倍ではないが、ポツダム宣言を読んでいるのだろうかと首をかしげるようなものばかりだ。

日本共産党をのぞくこれら諸政党の体たらくに比べて、民間の憲法草案には見るべきものがあった。

 日本国憲法の誕生  


◆ ハマダイコン(アブラナ科ダイコン属)◆

ハマダイコン 2017.5.8撮影 洲埼海岸(房総半島最西端)
WEBの「松江の花図鑑」には次のように書かれている。「栽培ダイコンの野生化したものといわれていたが最近では、藤田智「恵泉 野菜の文化史(1)ダイコン「ハマダイコンの多くは、栽培種の逸出野生化したものでなく、大陸から古い時代に渡来した野生ダイコンの後代」などとされる」。

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