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2014年1月31日金曜日

百田尚樹はなぜ「永遠の0」を書けたのか

2年近く前に知人から「ラブレス」(桜木紫乃)がおもしろかった、「永遠の0」(百田尚樹)を今読んでいるというメールをもらった。
しばらく忘れていたのだが、昨年5月にふと思い出し、図書館で予約した。

「ラブレス」はすぐに届き、読後の感想などもブログに書いたのだが、「永遠の0」は予約した時点で300人ぐらいの待ちだった。
これはとんでもない人気小説だなと思い、気長に待つことにした。

半年後の11月、赤旗にNHKの経営委員にかかわって、次のような囲み記事が載った。


――以下転載(赤旗2013.11.16付)

“他国が攻めてきたら9条教信者を前線に送る”

作家 百田尚樹氏の“見識”

 8日に衆参本会議で承認された5人のNHK経営委員会委員の人事。その顔触れは、安倍晋三首相の応援団や家庭教師で固められた「お友達人事」でした。

 その中の一人、作家の百田尚樹(ひゃくたなおき)氏が13日に経営委員の辞令を受けた際、記者団から質問されました。首相と近い間柄を問われ、「(就任に当たり)総理とは一言も話していない。そんなに近くない」と語りました。

 百田氏はそれでもおさまらなかったのか、同日の自身のブログで「彼らは経営委員の仕事や権限がどんなものか知ってるのだろうか。彼らに教えてやりたい。経営委員が番組制作に口出したり介入したりなんか、まったくできないんだよー」とぶちまけています。

 百田氏といえば人気小説家です。しかし、ブログで「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」などと憲法への冷笑を繰り返し、テレビ番組では故意に反対する人たちを「妄想平和主義者」と呼ぶなど、特定の立場を鮮明にしてきました。

 さらに、昨年の自民党総裁選で「安倍総理」を誕生させるための「有志の会」の発起人に、名前を連ねていました。今回経営委員に承認された哲学者の長谷川三千子氏も発起人の一人です。首相と「そんなに近くない」どころではありません。

 経営委員が番組に介入できないのは当然です。しかし、番組制作をつかさどる会長の任免権を持つうえに、2008年の放送法改定で経営委員会の権限が強化されました。委員には政治権力から自立した関係と資質がいっそう厳しく問われることを、百田氏は理解しているのでしょうか。

 13日付のブログで百田氏はこう続けています。「NHKが日本の国営放送局として国民のためになる番組や報道を提供できる放送局になれば素晴らしいことだと思う」。NHKは国民の受信料で成り立つ公共放送であり、断じて政府ヒモつきの「国営放送局」ではありません。早くも百田氏の委員としての資格が問われています。(佐)

転載ここまで――

百田尚樹という作家についてはまったくといっていいほど知らなかったのだが、この記事を読んでびっくりしてしまった。
とんでもない人物ではないか。

このようなふざけた安倍のお友達の本がなぜ超人気を博しているのか。
そんなやつの書いた本など読む気もしない。
図書館の予約もキャンセルしよう。

と思って、図書館の予約サイトを開いてみると、まだ200人近くの待ちであった。
永遠に待たされそうだなと思いながら、キャンセルせずにこのままにしておくことにした。

そうこうしていると、この「永遠の0」が映画になった。
文庫本も300万部を突破し、文庫歴代売上1位になったらしい。
気になる。

年が明けて、妻がこの映画を観たいからいっしょに行かないかという。
そこで私は百田尚樹はこんなやつなんだぞと妻に教えてやる。
妻はそれを聞いて、数日間映画を見るかどうか悩んでいたみたいだが、けっきょく中学生の息子と2人で観に行った。

さっそく妻に映画の感想を聞いた。

とても良かった、戦争美化ではない、もちろん特攻を美化しているわけでもない、どちらかといえば反戦ではないか…。

もう少しくわしく話の筋を聞いていると、私には忘れられない
ひとつのテレビ番組を思い出した。
2011年9月にNHK教育で放送されたETV特集「おじいちゃんと鉄砲玉」だ。

NHKの久保田という若い女性ディレクターが自分の祖父の戦争時代を祖父の戦友を訪ねて取材した1時間のドキュメンタリーだ。
NHK・ETV特集

祖父は卑怯者だったのか、なぜ命を惜しんだのか、事実はわかったようでわからない。
しかし、最後の最後で懐中時計の裏蓋から現れた写真がすべてを物語っていた。

そのような番組の概要を私が思い出しながら話すと、妻と息子はうなづきながら聞いている。
まさに「永遠の0」はそのような映画だったと。

どういうことだろうか。
あの百田尚樹がそのような物語をつくりだすことができるのだろうか。

私が小説「永遠の0」を図書館の予約で永遠に待っていることを話すと、妻は友人が持っているから借りてあげようといい、2日後には私の手元に講談社文庫の「永遠の0」が届いた。

それで読み始めた。
読み始めて2日目に図書館から予約の本(永遠の0)が届いたのでとりに来てくださいとメールがあった。
わけがわからないまま、電話でキャンセルをする。

物語はまさに「おじいちゃんと鉄砲玉」をパクッたのではないかと思われるような展開だ。
しかし、この小説の方がETV特集よりも5年早く出版されている。

たしかにおもしろい。
戦争美化、日本軍美化、特攻美化にはなっていない。
兵隊を消耗品のごとく死に追いやった軍の中枢を厳しく批判している。

お国のため、天皇陛下のため、悠久の大義のために命を捨てるのではなく、娘と妻のために生き抜く。
このような物語を百田尚樹のような人物がなぜ書けたのか。

といった疑念を持っていたところ、先日次のようなコラムが赤旗に載った。
赤旗2014.1.21付 レイアウトは変えた
このコラムを読むかぎり、私としては百田尚樹を擁護したくなってしまう。

「特攻のような無謀な戦術をとった戦争の本質を見る目がなく、加害責任への視点もない」と一刀両断しているが、百田憎しの批判のための批判になっているように思う。

この物語の舞台は海であり空であり零戦だ。
戦っている相手はアメリカ軍。
真珠湾攻撃以降の太平洋戦争におけるアメリカとのたたかいを侵略戦争というのはどうだろうか。
赤旗のいう「戦争の本質」とは何をいわんとしているのかわからないが、戦争を遂行した軍部中枢の非道さはこの小説ではたびたび告発している。

映画ではなかったが、小説では特攻の極致ともいえる人間ロケット爆弾「桜花」にもふれている。

よくもまあこれほど非人間的な兵器が作られたものだと思います。

BAKA-BOMB、すなわちバカ爆弾です。…「BAKA」そのものずばりだったのです。すべての特攻作戦そのものが、狂った軍隊が考えた史上最大の「バカ作戦」だったのです。

思想的に安倍のお友達といわれる百田が、特攻作戦を狂った軍隊が考えた史上最大の「バカ作戦」と言っているのだ。
もちろん小説の登場人物に言わせているのだが、この小説全体の骨になっている思想だ。
これだけで十分評価できるではないか。

赤旗1/26付には「NHKはいま」と題して、百田批判のけっこう大きな囲み記事が載った。

――ここから転載(赤旗2014.1.26付)

経営委員がふまえるべき精神とは
百田尚樹氏の乱暴な言説

 昨年11月にNHK経営委員に就任した作家の百田尚樹氏が、都知事選告示を前にした18日、みずからのツイッターに「私が東京都民だったなら、田母神俊雄氏に投票する」と書き込んだことが問題になっています。

 放送法第1条2項は「放送の不偏不党、真実および自律」を定めています。NHKの最高決議機関である経営委員会の委員はこの条項を誠実かつ積極的に守る必要があります。百田氏の言動は都知事選直前の時期の極めて挑発的で露骨な政治的発言です。経営委員としてふさわしくないとの批判が起こるのは当然です。

 しかし百田氏はツイッターで反論します。「『NHKの経営委員がそんなことをツイートしていいのか?』という非難のリプライが多数寄せられた。まとめて答えてやる。いいんだよ!!」。

 根幹にかかわる

 何とも下品で荒っぽい反論です。確かに放送法や経営委員の服務に関する準則に各委員の政治的発言を禁止する条項はありません。しかし、経営委員については放送法は「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」とされ、準則では「経営委員会委員は、放送が公正、不偏不党な立場に立って…健全な民主主義の発達に資する」ことを「自覚」することを求めています。この精神に立つ限り「いいんだよ」と開きなおることはできないはずです。

 2007年経営委員長に就任した古森重隆氏(当時富士フイルム社長)が、自民党議員の励ます会に出席し「応援をよろしく」と述べたことが批判された事例とまさに同一です。

 百田氏のツイートは、経営委員になったばかりの昨年11月にも問題になりました。「NHKが日本の国営放送として国民のためになる番組や報道を提供できる放送局になれば素晴らしいこと」と書いたのです。

 戦前、国家の宣伝機関の役割を果たした痛苦の教訓から、戦後NHKは、視聴者に支えられる公共放送として出発しました。公共放送か国営放送かはNHKの根幹に関わる問題です。当然大きな批判がおきました。

 視聴者には悲劇

 しかし百田氏は「ついうっかりNHKを国営放送と書いてしまったが、私のアンチが鬼の首を取ったみたいにおおはしゃぎ」とこれまた開き直り。NHKのことを少しでも理解するなら、「ついうっかり」でも「国営放送」などと書くことはできないはず。この段階で経営委員失格です。

 経営委員はNHKの番組に介入することはできません。しかし、事業内容、予算の承認、NHK会長の任命、NHK役員の職務の執行の監督など絶大な権限があります。それは権力から自立した視聴者のためのNHKをつくるための権限です。

 ただ現実には権力に最も近い人びとが経営委員に送り込まれています。まるで喜劇です。しかし視聴者にとっては今すぐにもやめてほしい悲劇でもあります。(萩野谷正博)

転載ここまで――

ほんとうにいやなヤツだと思う。

1/29の赤旗では、籾井NHK会長の問題発言報道の中で、次のように百田のことにもふれている。

また、同じく経営委員に任命された小説家の百田尚樹氏は、雑誌『Voice』13年4月号で、「安倍政権では、もっとも大きな政策課題として憲法改正に取り組み、軍隊創設への筋道をつくっていかねばなりません。

やはりとんでもない思想の持ち主だ。

赤旗は、「永遠の0」にケチをつけるのではなく、私が何度もいっているように、なぜ百田のような人物が「永遠の0」のような物語をつくりだすことができたのかを分析してほしい。

映画「永遠の0」は昨日観てきた。

零戦が海面すれすれに飛行し、アメリカ空母に近づいていくところから映画ははじまる。
小説では最後のエピローグのシーンだ。
つまり、小説を読んでいるものは、映画のスタート時点から小説のすべてをいっきに思い出させることになり、いきなり胸を揺さぶられる。

付記:小説(講談社文庫)の解説を児玉清が書いている。児玉が小説を賛美することはいいのだが、百田という人間を礼賛していることには辟易してしまう。

「おじいちゃんと鉄砲玉」はドキュメントであり、「永遠の0」とはちがった意味ですばらしい作品だ。それも超のつくすばらしさだと思っている。


◆ クズ(マメ科クズ属) ◆
クズ 2013.9.5撮影
おなじみ秋の七草のひとつ。あまりに広く大きく繁茂し、その中に埋もれるようにして花が咲いているので、美しい花なのにあまり目立たない。名前は「かつて大和国(現:奈良県)吉野川(紀の川)上流の国栖(くず)が葛粉の産地であったことに由来する」とWikipediaにある。

2 件のコメント:

  1. 今日(平成27年7月31日)テレビで映画「永遠の0」をやっていたので、はじめて見ました。これまで百田氏の小説も読んだことがなく、またこのところの百田氏の言動でとんでもない人物と思っていたのに、映画の内容からはどう見てもこれはよくできた反戦映画ではないかと。このような小説を書けた百田氏とその人物像とがどうしても結びつかず、検索していたらこのブログにあたりました。同じようなことを感じている人がいると思いちょっとうれしくなりましたが、謎は解けません。

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  2. そもそも超弱小ブログですからコメントもめったにないのですが、この記事にコメントがないのはなぜだろうかと不思議に思っていたところです。
    やっとのコメントありがとうございました。
    百田尚樹はそれ以後もさまざまな暴言を吐いてひんしゅくを買っていますね。

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