ページ

2013年9月25日水曜日

「アンジェリク」を生み出したアン・ゴロンに最大の賛辞を

昨年の6月、近くのフタバという本屋の古本コーナーのさらに100円コーナーを物色していたら、赤の目立つ背表紙の文庫本が7~8冊かたまっていた。
「アンジェリク」(講談社文庫)という題名。
初めて目にする知らない本だ。
手にとってカバー裏の紹介文を読んでみる。

17世紀のフランス、片田舎の貧乏貴族の娘に生まれた美しいアンジェリクがたどる数奇な運命。初恋と毒薬の秘密、醜い大金持ちの伯爵との政略結婚、宮廷貴族の陰謀と夫の突然の失踪……。苦難と闘い続けるアンジェリクの恋と冒険を描いて、世界各国でベストセラーとなった大河歴史ロマン。(全26巻)

ベルサイユのばらを連想してしまってやめておこうかなと思ったが、全26巻というのがすごい。
つまらなかったら馬鹿らしいので、とりあえず1巻だけ買って読んでみることにした。

最初に作者のアン・ゴロンみずから「日本の新しい読者の皆様へ」というまえがきがある。
出だしの4行が次のようなもの。

個性的な主人公たち、変化に富む華やかな舞台、多様な歴史的背景。登場人物の多さに読みごたえあるページの分厚さ。そして軽やかな文体と、全編を貫くエネルギーあふれる躍動感。どれをとっても、この作品には格別なものがあるはずだ。きっと最後まで、一気に読んでしまわれることだろう。

いきなり傲慢とも思える自画自賛の文を読まされて、一気に読む気を失う。
とはいえせっかく買ったのだからと読み始める。

まさに一気に読んでしまった。
すぐにフタバへ行き、残りの巻をすべて購入。
つまりはまってしまった。

あちこちのブックオフやフタバの100円コーナーで買い足し、後半のどうしても古本屋で見つけられない巻はアマゾンの古書でネット買いし、それでも欠ける巻は市の図書館で借り、つい先日、全26巻を読み終えた。

最初からどんと目の前に26巻積まれていれば2カ月ぐらいで読了しただろう。
が、次の巻が手に入るまで1カ月も2カ月も待ったり、けっきょく全巻読了まで1年と3カ月かかったわけだが、その間アンジェリクの世界に長いことひたることができて、それはそれで幸せだった。

ところで、「世界各国でベストセラーとなった」とか、「世界中で読まれ、愛されているアンジェリクの物語」(作者まえがき)なのだが、私は知らなかったのだ。
私がとくに文学にうといのだろうかと不安になったりもしたのだが、読書好きな友人・知人に聞いても誰一人として「アンジェリク」の存在を知っている人がいなかった。

いくら何でもこれほどよくできた小説が世に知られていないというのはおかしいと思い、ネットで調べてみた。

日本ではマンガ(木原敏江作、1977年~1979年)になっているし、宝塚でも公演(1980年~1981年)されている。
フランスでは映画にもなっている(日本未公開)。
その映画も2002年にNHK・BS2で五夜連続で放映されている。
そして熱烈なファンがいる。(たとえば「アンジェリクの宝石箱」)

それなりに話題になっているのだが、それにしても合点がいかない。
はっきりいって、この「アンジェリク」を超える小説がこの世にいくつあるのかと思う。
私の恥ずかしい読書歴においても最高位におきたいぐらいだ。
女性が主人公の小説でいえば、「アンナ・カレーニナ」や「風と共に去りぬ」などと比べても総合点では「アンジェリク」が上ではないか。

それなのに私の身近な人で「アンジェリク」を知っている人はいないのだ。
名前さえ聞いたことがないという。

もちろん多くのファンがいることは、私が図書館で借りた巻はどれもたくさんの人に読まれて痛んでいたことからもわかる。

まあこの疑問はおいておくことにしよう。

ところで、最後の巻を読み終えたとき、これで終わり? という疑惑が起こり、満たされない気分になる。
調べてみると、フランスの原著では次の巻があるのだ。
さらに、講談社文庫26巻は井上一夫という人が訳しているのだが、フランス語原著からではなく、英語版を翻訳したもので、その英語版がずいぶんと原著を逸脱しているらしい。

作者のアン・ゴロンは出版社に勝手なことをあれこれされて、自分の思うような本になっていなかったらしく、全面的に見直してアンジェリク「完全版」に着手した。
日本ではその「完全版」のフランス原著からの翻訳で、2012年の2月から刊行が始まり、すでに6巻まで出ているみたいだ。
最終的に何巻になるのかわからないが、30巻ぐらいではと予想もされていて、あと10年ぐらいかかるのかな。
(原著「完全版」が完結しているかどうか知らないし、アン・ゴロンが現在生存しているのかどうかもわからない)

それで、自分が生きているうちに最終巻が読めるのだろうかと心配している人が多いみたいだ。
最終巻というのは、講談社文庫版で26巻の次にあたる巻だ。

スティーブン・キングが交通事故にあって死ぬのではないかと思われた時期、ダーク・タワーが完結していなくて世界中のファンがいったいどうしてくれるのかと気をもんだことを思い出す。

ダーク・タワーといえば、新潮文庫で16巻だ。
幕切れはちょっと拍子抜けしたが、読んだぞという満足感があった。
アンジェリクは26巻。
もっと続きを読みたいという欲求不満にかられる。

その欲求不満も「完全版」のおかげで、あと10年ぐらい生きながらえれば解消できるかもしれない。

アン・ゴロンという一人の作家が、ここまでたくさんの人物をリアルに描き、宗教や風俗・風土、自然をみごとに描写し、このような感動的な愛と冒険の物語を創り出したことに最大の賛辞を送りたいと思う。

*「アンジェリク」の内容についてはあえて触れなかった。


◆ ムラサキカタバミ(カタバミ科カタバミ属) ◆
ムラサキカタバミ 2013.5.14撮影
昨年も同じ場所の同じ花を投稿した。白とピンクの2色がいっしょに咲いているところは園芸種のゆえんだろう。今ではすっかり野生化して、雑草あつかいだ。しかも要注意外来生物に指定されている。こんなにかわいいのにね。

 訂正 2020.9.30  最近カタバミの種にイモカタバミというのがあることを知り、過去の投稿を見直している。雄しべの葯が黄色であればイモカタバミということで判定しているが、すべてイモカタバミのようだ(上記写真も)。情けない。ムラサキカタバミの葯は白。

ムラサキカタバミ 2018.4.19撮影
こちらが本当のムラサキカタバミ。黄色の花が3輪見えるが、これはふつうのカタバミ。

0 件のコメント:

コメントを投稿